第11章 露呈
クロエの夜に見せた顔の噂はあまり広がることはなかった。
と言うのは、不埒な考えを持つものが少数だったためにその仲間内だけで広がり、それ以上は拡大しなかったのだ。
また責任者であるベイヤードにも伝わることがなかったのは、クロエとしては幸運だった。
事に及んだ海兵が正直に告白していれば、対策を取り、より強力な人物を護衛として要請していただろう。
それだけ危険な人物だったのにも関わらず現状が変わらなかったのは、海兵達に仕出かそうとしたことに対しての罪の意識があったから。
その事が、今後救出に向かう男達の味方をした。
ジルは自室で資料片手に電伝虫に向き合っていた。
前回この電伝虫を使ってから調べ上げた情報を協力者に伝えるためだ。
「あと2週間ほどで合流してしまいますので、その前しかチャンスはありません」
『どんなやつが来る』
「確かな情報は得られませんでしたが、護送されているのはクロエ中将です。最高戦力で来てもおかしくないと思いますので、ロブ・ルッチが妥当かと」
『あのヒョウのやつか』
ジルは返事をしながら、妥当もなにも、必ずロブ・ルッチであると確信を持っていた。
それは彼がクロエに異様に執着していて、そのクロエの護送というこの件に絡まない筈がないのだ。
彼の仕事で海軍が絡むときは必ず第一にクロエを指名してくる程執着が強く、スケジュールが合えば応じないわけにもいかずに渋々参加したクロエは本人を目の前にしてよく愚痴っていたのを覚えている。
「世界政府の人間をのせた船がクロエ中将の乗る船に合流してしまっては流石に救助をお願いしている立場と言えど引き留めない訳にはいきません。それ程死ににいくようなものです」
本音を言えば世界政府の船がまだ合流していないことに驚いていた。
世界政府が指揮を取りクロエを捕らえたと言うのに、その要人がだれもその場にいない。
いつもならば、遅くとも船が出る前には合流している。
『船の進路は?』
「エターナルポースで世界政府が所有する島へとまっすぐ向かっています。補給などは合流する船で行われるので、島に寄ったりはないと思われます」
可能な限りクロエの脱獄の機会を潰すような航海。
厳戒態勢と取れるそれは異様だった。