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八重歯と稀血

第1章 壱.一目見たその時から





屋敷へ着くと他の隠たちも同時に挨拶をしていた。


「わたしは買い物してくるし、この人たちが手伝ってくれるから…その、これから大変になるだろうから今日くらいはゆっくり休んで」

「え…?」

「どこかへお出かけしてもいいし、この屋敷で休んでてもいいよ」

「そんな、柱の方達が動いてるのに私達がゆっくりなど…!」

「ううん、本当に気にしないで。ね? 伊黒、不死川さん」

「あ、おう…」
「まぁそのつもりで来ているからな」

「様…!お気遣いありがとうございます…!」


感激した様子でひたすら頭を下げていた。
じゃあ買い物行きましょうか。と振り向く顔は変わらず無表情だった。

何に対してもつまらなそうな顔をするくせに、さっきの笑顔は幻かなんかじゃねぇかと思い始めた。

後ろ姿から見たこいつはとても小さく華奢だった。
まるで戦えるようには見えねぇ。

こんなやつが鬼を50越えて殺して、さらに下弦まで1人で倒してる。
信じられねぇな。


「買い物の帰りは日が暮れそうですね。急いで行きましょうか」


無理やり連れてきたくせに、俺を差し置いて仲良さそうに喋る二人。
伊黒がこんな風に話しているのを見るのは初めてなので、思わず笑ってしまう。


「なにを笑っている不死川」

「いや、別に」

「ところで不死川さん、今日は夕方からお仕事ないんですか?」

「あァ今日は特になんもねぇよ」

「ありがとうございます、付き合ってくれて。伊黒も」

「……昔は名前で呼んでたんだろ?
別に俺の前では無理しなくていいぞォ」

「あれわたし名前で呼んじゃってました?」

「さっきなァ」

「……ありがとうございます、実弥さん」

「あ?」

「え?小芭内と一緒に名前呼びしてもいいということでは?」

「は?会話の流れについてけねェ。なにがどうなったらそうなる?」

「わたしのこともって呼べばいいじゃないですか」

「……あ?」


あー、こんなこと、言われたなァ。匡近に……。

ふと思い出し、つい気を緩めてしまった。
まァ、別にいいか……。

他愛もない話をしながら目的の小さな下町へ着く。

そこで持ち帰られないほど屋敷に必要なものを買い揃えていた。


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