第12章 それぞれの思いと戦い
マユサイド
意識がもどった時、そこにはもう誰もいなかった。
周りには崩れた繭玉、離れた場所に感じるヒルコ、ナルトくん、そしてかかしの気配。
あぁ、私は失敗したんだ…
かろうじて持ち上がる腕を見て、何のための力だと嘆いた。
しばらくするとさくらちゃんがやってきて治療を開始してくれる。いや、治療なんてやってる場合じゃない。
ヒルコに多少なりとも融合しかけたときに、なんとなく彼について少しわかった部分があった。
ヒルコは術を吸収する冥遁・吸穴孔という技を持っているため、直接やりあってもその術を出されてしまえばすべて吸収されてしまうのだ。
どうにかしてその技を出すことを阻止しないと…
さくらちゃんに無理やり頼んで、せめて戦闘が見える場所まで、自分の術がとどく範囲のところまで連れてきてもらった。
案の定、ナルトくんもかかしも苦戦している。
まともにやっても吸収されるなら、バレないように仕掛けるしかない。
ゼェゼェと乱れる呼吸を無視して、地面に這いつくばりながら両親指をかみ切る。
その親指とそれぞれの指を合わせ、すべての指の腹に自分の血をにじませた。そして両手で印を結び、その両手を地面につけ地中へと集中させる。
「糸遁…拘束術・赤引きの糸…(しとん・こうそくじゅつ・あかひきのいと)」
自分の血を混ぜて作る、一時的ではあるが一番拘束することに強さをもつ赤い艶のある血の糸が、印をとおして地中からヒルコにむかって流された。
術に全神経を集中させヒルコに察知されないようにしなければ…
痛みきしむ体を我慢し、流れる額の汗もそのまま私は地面にうつぶせになったまま糸を流し続けた。