第13章 やりたいこと 上
しばらく2人、下で術の練習をしているアカデミー生たちを眺めていたが、三代目がふいにこちらを振り向く。
「サク」
「はい」
改まって切り出した三代目に、わたしもアカデミー生たちから視線をはずし三代目を見る。
「これから、何になりたいか。
どこに向かいたいか。
今、漠然とでも希望はあるかの」
「何になりたいか……ですか?
わたしは木の葉の忍として、里の、三代目の役に立ちたいと思って今までやってきました。
他のことは、考えたこともなかったです……」
いきなりの質問に戸惑いながらも、これが今のわたしの正直な気持ちだった。
「うむ、そうか……」
三代目はなんで急にこんなことを言い出したんだろう……。
真っ直ぐに私を見る三代目の真意を測ろうと見つめ返すが、答えは出そうもなかった。
「はい。
あ……」
「なんじゃ」
ふいに思いついた、心の隅にあった気持ち。
これは誰にも言ったことがなかった。
でも、今なら……。
実の父のように育ててくれた三代目になら言えるかもしれない……。
「任務で、たまに悪い大人に利用される幼い忍に出会うんです……。
そのたびに、悲しくなって……。
捨てられていたわたしも、ひとつ間違えば同じ運命だったかもしれないから……。
だから、そういう子達を助けられたらな、とはよく思います……」
「ほう」
三代目がキセルを口元から外し、私を見据える。
忍の任務にはっきりいい、悪い、と白黒つけるのが難しいことはわかっている。
任務のためとはいえ人の命を奪ったり、人を騙すこともある。
私の言ってることは、ただのきれいごとなのかもしれない。
だんだんと自信がなくなって、声が小さくなっていってしまう。
「まだ、わたしに何ができるかはわからないんですけど……」
そこで言葉を切ったわたしに、三代目が満足そうに、穏やかな笑みを向ける。
「まだ時はある。
ゆっくりでいい。
考えてみなさい」
「はい。ありがとうございます」
三代目の背中を見送ってからも、わたしは柵にもたれかかって授業をしている子どもたちを眺めながら、三代目のさっきの問いを頭の中で何度も反芻していた。