第11章 理由
サクが去った後、バツが悪そうにそっぽを向く女の方に向かう。
「どういうこと……?」
オレがきつく睨みつけると、その顔に怯みながらも女がヒステリックに叫ぶ。
「なんで……、なんで、あんな女なの!?」
都合の悪いことは答えない……、か。
「サクは、オレが初めて好きになった子だから。
サクに何かしたら、許さない」
それだけ言うと、オレは踵を返しサクを追いかけた。
行った方角からして、部屋には帰ってないだろう。
あの公園か、あっちの広場か……。
目星をつけて急ぐと、思った通り公園のジャングルジムのてっぺんに座っているサクを見つける。
気配に気づかれると逃げられそうだから、慎重に近づき下から声をかける。
「サク……」
大袈裟にビクリとなり、オレを確認すると飛び降りて案の定逃げようとするから、腕を捕まえて自分の腕の中に閉じ込めてしまう。
泣いていたらしいサクは、ヒク、ヒクと体を震わせながらしゃくり上げる。
ぐっと強い力で胸を押して逃れようとするから、さらに強い力で抱きしめる。
しばらくそうしていたが、サクが諦めたように体の力を抜いたから、オレも少しだけ腕の力を緩めてサクを見下ろし、小さな声で聞く。
「アイツと何があった?
なんで泣いてるの?」
しばらくグッと引き結ばれていたサクの口が、話すのを躊躇うように少し開いたかと思うと、また閉じてしまう。
さっきできたであろう頬の傷の血をそっと指で拭うと、サクがピクリと震え、そして悲しそうな顔でオレを見上げる。
ポロリと新しい涙が一粒こぼれたかと思うと、あとからあとから溢れ出してくる。
「……っなんっ。なんで、キス、とか抱きしめたりとか、してくれなくなったんですか!?
なんで、付き合ってること、秘密なの??
なんで……、なんで、あの人のこと、抱いた、に……わたしは……!」
興奮して嗚咽まじりに溢れ出す声は半分くらいちゃんと聞き取れないけど、オレのエゴがサクを不安にさせてしまっていたことだけは、ハッキリとわかった。
ヒック、ヒックと盛大にしゃくり上げて泣くサクの背中を、優しく撫でる。
しばらく抱きしめ続けていると、サクの涙も興奮と共にだんだんおさまっていった。