第9章 2度目のファーストキス
「ゲン……」
わたしの気配に気付いていたであろうゲンは、頭を上げずに少しかすれた小さな声で言う。
「サク、さっきはゴメン……。
その、いきなりキスとかして……。
あと、サクが好きな人のこと、悪く言って……。
サクにオレの方、振り向いてほしくて……。つい」
ゲンのこういう素直なところは昔から変わらない。
こうだと決めたら一直線なところも……。
わたしはゲンに近づくと、思いっきり右手を振り抜いてゲンの頬を叩いた。
パチーンっと大きな音が公園に響く。
ゲンが呆気にとられたように、叩かれた頬を押さえながらわたしを見上げる。
「キスしようとしたことと先輩の悪口言ったことは、これで許す!
あと、好きって言ってくれて、ありがとう。
でも、わたしは先輩が好きだからゲンの気持ちには答えられない……」
「うん……」
ゲンが小さく頷く。
「でも、これはわがままなのかもしれないけど、ゲンは大切な友だちで、同期だから、今までと変わらずに仲良くしたい……」
わたしの思ってることを全て伝えゲンの瞳をジッと見ると、ゲンがふ、と笑う。
「すぐには難しいかもしれないけど、頑張る」
そう言ってくれた。
「うん」
「はーあ。
サクのそーゆうとこも好きだから、しゃーないよなぁ」
「え?」
「ほら、先輩待ってんだろ?
行けよ」
ゲンがしっし、と犬を追い払うみたいに手をふる。
これ以上ゲンに何と返していいかわからず、わたしは頷いて、先輩の待っている出口の方に歩き出す。
「サク!」
しばらく行くと、ゲンがわたしの名前を呼ぶ。
「ん?」
「来てくれてサンキューな」
振り向くと、ゲンがいつもの笑顔で笑っていた。
「うん。
ゲンも、風邪ひかないうちに帰りなよ」
「おー」
わたしは今度こそ振り返らずに先輩の元へと走った。