第8章 決意
夕暮れ時、仕事終わりの人が行き交う橋の上で、手すりにもたれ見るともなく流れる用水路を見ていると「カカシ!」と声をかけられる。
振り向くとそこには紅が立っていた。
「アンタが声かけるまで気づかないなんて珍しいわね」
紅がオレの横に来て、手すりに頬杖をつく。
「……」
「サクがアンタ庇ってケガしたんだって?」
「……なんで知ってんの?」
暗部の任務は基本秘密裏に行われる。
疑問に思いチラリと紅を見る。
紅の夕陽に染まった髪が冷たい風になびいた。
「昨日偶然ハナと会って聞いちゃった。」
「そ……」
「病院でずっとついてたんだって?」
クスリと笑われて、なんとなく視線を流れる水に戻す。
「……オレを庇って負った傷だしね」
「それだけ?」
「それだけってどういう意味よ?」
意味深な言い方に紅を見ると、紅が真っ直ぐにオレを見返す。
「カカシ、アンタサクのことどう思ってんの?
サクがアンタのこと好きなのは、とっくに気づいてるんでしょ?
付き合えないなら、中途半端な態度取るなって言ってん……」
「オレも、オレだってサクのこと好きだよ!
後輩としてじゃなく、女として……!」
オレは感情を吐露するように言葉を吐き出した。
「っ、じゃあなんで……」
紅は戸惑ったようにそこまで言って、一度口を閉ざす。
そして静かに言葉を紡いだ。
「……オビトやリンみたいに、また失うかもしれないから?」
「まだ抜け出せないオレを、笑っていいよ」
自嘲ぎみのため息のような笑みが漏れる。
「……笑うわけないじゃない。
でも、そんなに好きなんだったら一緒なんじゃないの?
付き合ってても付き合ってなくても、失ったときの悲しみも後悔も……」
普段冷静な彼女にはない必死な表情で紅は続ける。
「それなら、一緒にいた方がいい。
幸せな時間を二人でたくさん過ごした方がいいじゃない!
サクが暗部に行ってからカカシはすごく変わった。
それは、好きな人がそばにいるからじゃないの?
わたしはサクはもちろん、カカシにも幸せになってほしいのよ!
オビトや、リンのぶんまで……」
揺るがない紅の瞳を見返す。
そんなふうに紅が思ってくれていたなんて知らなかった。