第3章 潜入任務 下
その瞬間を見逃さず、男の背後に先輩が飛び込む。
「雷切!!」
バチバチバチッ!!
先輩の手に纏った稲光が男の胸を貫く。
と思ったら、男がたくさんの蛾になり散らばる。
撒き散る鱗粉を吸わないように、後ろに跳びずさると、男の強烈なパンチが襲いかかる。
それをすんでのところで避け、男の腕を掴み幻術をかける。
男の体は紫色の炎に覆われ、地面に倒れる。
熱くはないが、纏わり付く炎のせいで動くことができない。
「ぐっ!!」
わたしはその男の体の上に乗り、その首にクナイを当てがう。
「もうあなたはわたしの幻術から逃れられない。」
「くっ…。
なんでオレの邪魔をする!?
お前らだって金もらって任務してんだろうが!」
唯一自由になる口で、さっきまでの余裕の消えた声が響く。
「任務だからって人の命を粗末に扱って良い訳じゃない。
みんなそれぞれに家族があって生活があるのよ!」
「オレの家族も、生活も、全部奪われた!
親父が病気になって、金を払えないからって、アイツらは笑って全部奪ってったんだよ!!」
血走った目で男が吠える。
「っ、だからって、人のを奪っていい理由にはならないんだよ!」
クナイを首に食い込ませる。
「あんたは、人をおもちゃにしすぎた。
さよなら。
死んで、家族に会えるといいね…。」
幻術ではない火を燃え上がらせ、わたしは後ろに跳びずさる。
先輩がわたしのほうに来た。
「…終わりました…。」
「…うん。」
カパリと先輩がわたしのお面を取る。
ビックリしているわたしの頭を大きな手が乱暴に撫でる。
「なんで顔、してんの。」
「っだって…。悔しいです。
なんで、世の中は平和にならないんだろう。
子供がたくさん悲しまなきゃいけないんだろう…。」
「…そうだね。」
ぽすっと先輩が撫でていた頭を自分の方へ引き寄せる。
わたしは先輩の胸に頭を寄せるような格好になる。
「泣いてもいいよ。」
優しい声が頭上から聞こえた。
「…泣きません。
だって、わたしが泣いたって、あの子は救われないじゃないですか…。」
敵だけど、任務だから殺すけど、もっと幸せな人生を送って欲しかった…。
わたしも、悪いやつに拾われてたら、あの子みたいになってたかもしれないんだ。
人ごととは思えなかった。
何もない丘に、秋の夜風が冷たく吹き抜けていった。