第3章 潜入任務 下
「お前が作った?」
「そうだよ。
これは、この可愛い子たちの鱗粉なんだ…。」
そう言うと、たくさんの蛾が一斉に男の袖から飛び出した。
「君たちにもその快感味合わせてあげるよ!」
男の言葉とともに、細かな粉がその蛾たちから一斉に舞う。
粉は部屋を一気にピンク色の煙で覆う。
「サク!吸うな!
ここじゃ不利だ!外にでるぞ!」
コクリとうなずき、腕で鼻と口を覆い窓から庭に飛び出る。
男も追いかけてくる。
「逃げんなよ!
オレは戦いたくてうずうずしてんのに!」
手裏剣が無数に飛んでくる。
それを避けながら、ここではいけないと、街の外を目指す。
「なんで屋敷や、街の人たちにこんなことするの!?」
「何のため!?
決まってるだろう?
金のためだよ。
アイツは権力のためなら、いくらだって金をだしてくれたよ?」
男の余裕だった顔が、クシャリと歪む。
でもすぐにまた口元に笑みを浮かべ、迫ってくる。
「アイツって、側近の男?」
「ああ、ほんとイカれてるよな。
自分に反抗する奴は全員薬付けにして…。
街の奴らも使い物にならなくなったら、他所から甘い言葉を使って調達してくる…。
ま、そのお陰でオレは稼げてるわけだけど…。」
「なっ!?」
なんてひどい…。
それ以上の言葉が出てこなくて、わたしは押し黙る。
横を駆ける先輩も、ただ無表情に前だけを見据えていた。
街から外れた丘の麓でわたしたちは足を止める。
さっきは暗くてよく見えなかったが、月明かりに照らされた男の顔は幼く、まだ14、5だろうか。あどけなさが残っていた。
おもむろに先輩が口を開く。
「忍は何人か雇われてると聞いたが、他のやつはどうした。」
「オレに逆らうから殺してやったよ。」
事もなげにいう男に、やっぱりというふうに、先輩が小さくため息をつく。
「お前を殺せば、その麻薬は手に入らなくなる。
悪いが死んでもらうぞ!」
お面を被った先輩の赤い左目が鋭く光る。
「はは!そうこなくちゃ!」
バッと男の袖から、また蛾たちが一斉に現れる。
「火遁 炎弾!!」
勢いよくわたしが吹き出した炎が、蛾を一気に焼いていく。
もうもうと煙が上がる中、男が一気に距離を詰める。
キィン!
鋭く繰り出されたクナイを忍刀で受け、弾く。
思い切り足を蹴り上げるが、男は高く跳びそれを避ける。