第3章 潜入任務 下
「っちょっと、また犬扱いですか!」
先輩は、ツボだったのか、しゃがんで震えながら笑っている。
口では怒りながらも、楽しくてわたしも笑ってしまう。
「里でもそんな風にもっと笑えばいいのに…。」
つい本音がポロリとこぼれる。
先輩が笑いを収めてわたしを見上げ、立ち上がる。
「じゃあ、今日みたいにサクがいつもオレを笑わせてよ。」
まさか、そんな風に言ってもらえるなんて思ってなかったから、嬉しくて、心がキュンと音を立てる。
「はい!喜んで。」
足取りも軽く、風呂場へと向かう。
シャワーを浴びて、先輩のおいしい朝ごはんを食べた後は、さっそく今日の予定を決める。
「今日は俺は大名の屋敷を見てくるから、サクは昨日のアパートを見張って。」
「はい!」
「くれぐれも、忍ってバレないようにね。」
「任せてください!
先輩も気をつけてください。」
「うん。
じゃ、行くか。」
「はい!」
昨日の失態を挽回できるように、気合を入れ、出発する。
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暗くなるまで見張っていたが、麻薬の売買に繋がるような情報は、何も得られなかった。
ただ、里に頼んでいた昨日のタバコの解析の結果が、使いのタカによって知らされた。
やはり、あれは新種の麻薬。
この街で広まっていることは、間違いなさそうだ。
先輩もそろそろ帰っているかもしれない。
情報を共有するために、一度家に戻る。
少し遠くから家に電気が灯っているのが見えて嬉しくなる。
「ただいま帰りました〜!」
ガチャリとドアを開けると、すごくいい匂い。
居間の扉を開けると、先輩がキッチンに立っていた。
「あ、お帰り。」
「またご飯作ってくれたんですか?」
「うん、簡単にカレーだけどね。食べる?」
「はい!手、洗ってきます!!」
「うん。」
お茶を入れて、2人で席につく。
「いただきます!」
「どーぞ。」
一口頬張ると、ピリリと辛いカレーの味が口いっぱいに広がる。
「んー、おいしいです!」
疲れた体に染み渡る。
「そ?」
こうしてると、なんだか恋人同士みたいだな。
任務だし、そんな浮ついてたらダメだけど、少しの間だけでも幸せな気分に浸る。