第3章 潜入任務 下
昨夜はあまり眠れなかった。
寝不足の目を擦り居間に行くと、先輩がキッチンに立っていた。
昨日のことがあったから一瞬躊躇ってしまうが、先輩に声をかける。
「先輩、おはようございます…。
あの、昨日はすみませんでした。」
ペコリと頭を下げる。
「顔、酷すぎ。
シャワーあびてきなよ。」
素っ気ない声。
これ以上何を言っていいかわからなくなり、踵を返し風呂場へ向かおうとすると、先輩がわたしの手を掴む。
「昨日は、オレもごめん。
酔ってるお前にちょっとやりすぎた。」
振り向くと、先輩は目を逸らして困ったように少し俯いている。
「…っ、先輩は悪くないです。
わたしが、先輩と2人でいれて嬉しくて、つい調子に乗っちゃっただけで…。」
「え…?」
先輩の驚いた顔に、まずいことを言ってしまったことに気づく。
「やっ、2人で嬉しいってのは、先輩のこと尊敬してるから、一緒に任務できて嬉しいってことで…」
しどろもどろ答えながら、パニックになってしまう。
顔に熱が集まって熱い。
ふっ、と先輩が笑う。
先輩の顔をそっと見上げると、違う色の両目を細めて優しく笑っている。
「サク、お前、ゆでだこみたいになってるよ。
サクは男に対して無防備すぎだから、それは気を付けろよ。」
「はい!」
先輩が笑ってくれて嬉しくて、わたしも自然に笑顔になる。
「よし。」
そう言って頭をポンっと大きな手で撫でられる。
それだけで、わたしはドキドキしてしまい、気恥ずかしくてつい可愛くないことを言ってしまう。
「…っ、先輩だって、女の子の頭とかそうやってすぐ触るじゃないですか!」
「え、あー。
それはサクが犬みたいだからでしょ。
他の子にはこんなことしないし。」
「犬扱いしないでくださいー!!」
先輩を叩こうとするが、頭に手を乗せられているから腕の長さが足りなくて届かない。
先輩が楽しそうに笑う。
今は犬でもなんでもいいや。
先輩とこうやってジャレ合ってるだけで十分幸せだ。
「ほら、朝めし作っといてやるから早く風呂入っといでよ。」
「やったー、朝ごはん!
ありがとうございます!」
嬉しくて先輩を見ると、先輩がまたぷっと笑う。
「なんですか?」
ふしぎに思って尋ねると、「サクの反応、餌を前にした忍犬と一緒。」と笑われる。