第18章 幸せ溢れる日
出発の日の朝、昨日の幸せの余韻の中、すごく穏やかな気持ちで目が覚めた。
空はまだ薄暗いけど、風見鶏の家までは一日かかる。
夕方には着きたいから、日が完全に上る前には出発したい。
カカシを起こさないようにそおっと腕を抜け出そうとすると、ガシッと強い力で抱きしめられる。
「……おはよ」
昨夜同期に捕まって遅くまで飲んでいたカカシは、声がガラガラになってしまっている。
「おはよう、カカシ」
「ふふ。最後にやっと間違えなかったね」
「向こうでもちゃんと練習しときます」
「うん、よろしく」
朝の何気ないこんなやり取りも、温もりも、明日からはないんだと思うと、急に寂しくなってきて、カカシの肩口に顔を埋めてギュッと抱きついた。
カカシは何も言わずに、ただ髪を優しく撫でてくれた。
長くいれば長くいるだけ抜け出せなくなりそうで、わたしはそっと体を離す。
「そろそろ用意するね」
「……うん」
パッと布団を抜け出すと、のそりとカカシも起き上がる。
「カカシは寝てていいよ」
「奥さんの門出を見送らなきゃ。
帰ったらまた寝るよ」
「……ありがとう」
簡単な身支度を済ませて、朝靄の中、門へと向かう。
まだ人はほとんど起きていなくて、里はものすごく静かだ。
手を繋いで、お互い無言でただ歩く。
門は、すぐに見えてきてしまう。
自分が行くって言ったのに、この手をすごく離したくない……。
胸が、痛い。
「サク……」
門の手前のベンチまで来た時、今までにないくらい切ない声でカカシに名を呼ばれ、苦しいくらいに抱きしめられる。
「か、かし……」
泣かないって決めてたのに、勝手に涙が溢れてくる。
カカシの胸に顔を押し付けると、わたしの涙がカカシの服にどんどん吸い込まれていった。
「体、気をつけてね。
食べすぎちゃダメだよ。
夜はちゃんと寝て、髪はちゃんと乾かして……」
「ふふ、カカシお母さんみたいだね」
「会いに、行くから」
「うん。
わたしも連休が貰えたときは帰る」
「うん」
カカシがわたしの顔中にキスをする。
少しくすぐったいけど甘んじて受けていると、最後に唇がしっとりと重なる。
お互い息が上がるほど何度も口付けあって、苦しいほどカカシの気持ちが伝わってきて、やっとカカシの背中に回っていた腕をほどく。