第1章 IFストーリー 安土の蝶と越後の龍 「琴菜様リクエスト」
「…逃がさん、貴様は今すぐ地獄に送ってやる。」
「…ひ、ひぃ…ひぃぃぃぃ!!」
体が凍ってしまうような目を男に向けた謙信はその男に刀を振り上げ、叩き斬った。その場に男は、崩れ落ち、血が飛び散る。
「…謙信様…?」
しのぶはまるで、飢えた獣の様に男達を切り捨てて行く謙信に冷や汗を垂らしながら、漸く動き始めた体を何とか呼吸を使って動かし、横たわっている娘の下にフラフラになりながらも、歩き出した。
トッ…!
「…っ!」
途端に足を引っ掛けてしまい、体が傾く。まずいと思った。
ドサッ…。バッ…!!
…痛みを感じなかった。顔を上げると佐助が心配そうに此方を見ていた。
「しのぶさん、本当に済まない。…俺が警備をもっと重視していたらこんな事には…。」
悔しそうに呟く佐助にしのぶは安心させる様に微笑んだ。
「ふっ…大丈夫です。…ちょっと、体が言う事を聞かないだけですから。…それよりも、倒れている彼女の方をお願いします。」
それを聞くと佐助は頷いて、娘の方を指差した。其処には何人かの忍が居た。驚いて、佐助を見るしのぶに佐助はゆっくりと話しだした。
「…しのぶさんが居なくなったあとに俺も気になって、軒猿を放っておいたんだ。大丈夫、彼らは俺の仲間だよ。ただ、こんな最悪な結果になってしまって…。本当にごめん。」
「…謝らないで下さいな。助けてもらえただけで十分ですよ。…ですが、謙信様はどうしてここが分かったのでしょうか?」
しのぶが不思議そうな顔をしていると佐助が続けた。
「…それは、謙信様もずっと君を探していたからだよ。勿論、俺達、軒猿もだけれど。あれほど、取り乱した謙信様は初めて見たなぁ…。」
佐助は数時間前の事を思い出すかの様に、話した。そんな時だった、氷の様な目をした謙信が男達を全員斬り捨て終わったのは。辺りは静かになり、誰も謙信に話しかけようとしなかった。
「…謙信様、ありがとうございます。助けて下さって。………謙信様?」
しのぶが謙信にお礼を述べる為に近づくと謙信はフラフラと歩き始め、ガッとしのぶの肩を掴んだ。その力の強さに痛みを感じてしまったが先程の事よりはマシだと思い、しのぶは謙信の顔を見た。
「…奴等に何処を触られた?」
謙信は氷の様なその瞳に何も写していないかの様に見えた。しのぶは少しだけ身震いしながらも応えた。