第1章 田中龍之介
「こんなに遅くなっちまったけど家の人心配してねぇか?」
「大丈夫だと思います。さっきメール入れたので」
「そうか、なら良かった」
「毎日こんなに遅いんですか?」
「まぁそうだな。居残り練するともっと遅くなるしな」
「そうなんですか…じゃお腹空きますね」
そう言ったところで、グーっと私のお腹が鳴った。何で今⁉︎田中先輩の前で鳴るとか考えられない。私のお腹のばかぁぁぁ。
「ブハッ、お前が腹減ってんじゃねぇか‼︎」
穴があったら入りたい。この場から消えたい。もうやだぁぁ。
「坂ノ下でなんか食ってこうぜ‼︎俺も腹減ってんだ。なっ‼︎」
大笑いしてくれた田中先輩。気付かないふりされるより良かった。気まずくならないように笑ってくれたのかも。また先輩の優しさに触れた。
やっぱり田中先輩大好き‼︎
家の前まで送ってくれた先輩。
「今日はありがとうございました。あと、ごちそうさまでした」
「おう、いいってことよ。じゃまたな」
「おやすみなさい」
「田中先輩‼︎」
「ん?」
「明日も練習見に行っていいですか?」
「おう、いつでも見に来い」
「はいっ。あ、でもこれからは暗くなる前に帰りますね。1人でも帰れる時間に」
「遅くなったらまたいつでも送ってきてやっから安心しろ」
「でもそれだと、田中先輩が帰るの遅くなっちゃうのでだめです」
「別に遅いっつったって大したことねぇよ、気にすんな」
「先輩は本当に優しいですね」
「なっ…べっ、別に優しくはねぇよ。それくらい普通だろ」
「そうゆうことを普通って言える先輩はやっぱり優しいです」
「あ、あまり、人から優しいとか言われる事ねぇから、なんか照れるな…」
「照れてる先輩可愛いです」
「や、やめろバカ。おまえ俺をからかってやがるな」
「ごめんなさい」
「ごめんなさいって言いながら笑ってんじゃねえか」
「じゃ先輩、気を付けて帰ってくださいね。おやすみなさい」
「おいコラ、逃げたな」
私は急いで玄関のドアを開け、閉める前に先輩にもう1度頭を下げた。
先輩は片手を上げて今来た道を戻っていった。
先輩、おやすみなさい。