第16章 ナワーブと一緒END
「おわっ!?いつの間に後ろに!?」
後ろから話しかけられ、驚いて壁に背中をぶつけた。
「大丈夫かぁ?ご飯食べてきとったんよ。傭兵はんが何の用?」
「夏葉が梅粥食べたいって言ってて、それに入れる梅?ってやつを芸者が持ってるから、貰ってもいいか聞いてきてって頼まれて…」
「梅干しか!ええよ、待っとき。」
芸者はそういうと部屋のなかに入っていった。梅干しか。どんな食べ物なんだろうか。
「傭兵はんお待たせ!はいこれ!」
「?なんでこんなにしわしわなんだ?」
「そういう食べ物なんよ。ほら、口開けてみ。」
俺が口を開けると、芸者が口のなかに梅干しというものを突っ込んできた。
「すっぱぁ!?なんだこれ!?」
「よーく味わって食べてみぃ。」
そう言われてすっぱさと戦いながら梅干しをたべる。すると、そのすっぱさがこの食べ物の美味しさなんだとなんとなくわかった。
「これ、美味いな」
「せやろ?傭兵はんにもあげる!ほら。」
「あ、ありがとう」
芸者はいつでもおいで、と言って見送ってくれた。芸者ってどちらかというと母さんみたいなポジションにいるんだな、と思った。
「夏葉、ただいま」
「ナワーブ、おかえり。ぎゅーして?」
貰った梅干しを一度テーブルの上に置いて夏葉を抱き締める。息が少し荒いから、薬が切れ始めているんだろう。
「体調……どうだ?」
「凄く、いい…ごほっごほ…」
夏葉に行かせなくて良かった。あのまま出歩かれていたら倒れていただろう。
「寝てろ。今から作るから。」
「ありがと…」
俺は料理はカレーぐらいしか作れないが、さすがにお粥ぐらいは作れる。
「あー、ナワーブ。少しだけ塩は入れてくれると嬉しい…」
「分かった。」
あんな酸っぱい食べ物を入れるのに、塩も入れるのか。酸っぱくならないのか?
そんな疑問を抱きながらも、塩を入れて混ぜて、米がねっとりしてきたところで梅干しをちぎって入れる。これで完成……でいいんだよな?
一口味見をしてみる。すると思った以上に酸っぱくはなく、優しい味がしていた。なるほど。これは美味い。いや、自画自賛とかではなく、この食べ物自体が美味い。
「夏葉、できたぞ。」
夏葉が喜んだような表情でこちらを見てくる。夏葉はどんなときでも可愛いな、と思った。口には出さないけど。