第75章 静かな時
「お父様、お母様、失礼しました」
「父様、母様、ごめんなさい」
二人は墓石に頭を下げる。
「……………」
「……………」
しばし黙るが、光希がゆっくりと口を開く。
「父様、母様。紹介します。この人が、私の……この世で最も大切な人です。いつでも、どんなときでも私を助けてくれました。あなた方と別れてから、ずっとこの人が私を支えてくれました」
「……光希」
「善逸のお陰で生きてこられたの。一人ぼっちじゃなかったから、私ちっとも寂しくなかったよ。今みたいにすぐ喧嘩になっちゃうんだけどね。だから、父様も、母様も、善逸に御礼言っといて。私の命の恩人だから」
光希は、涙を拭いて両親に向けて笑顔を見せた。隣で泣く善逸の涙も拭いてやり、立ち上がる。
「戻ろ、善逸」
「…………うんっ」
二人は手を繋いで、もう一度お墓に頭を下げる。
「また来るからね」
「俺も、また来ます」
そう言って、お墓を後にした。
炭治郎の家へ戻る道で、光希は満足そうに声をあげる。
「念願達成!嬉しいなあ」
「………そうだね」
「どうかした?」
「……俺、お前のこと、好き。凄く好き」
「ど、どうしたの急に」
「やだもう、本当に好き。どうしよう、堪んねえ!好き!!大好き!!」
そう言うと善逸が突然光希に襲いかかってきた。彼女を抱きしめて木に押し付け、唇を奪う。
激しい口付けが、角度を変えて何度も繰り返された。善逸の吐息が熱い。寄せられた眉に、彼の余裕の無さがわかる。
光希は驚いて抵抗し、善逸の胸を押し返そうとするがびくともしない。
「……やっ!ちょっ……ん、…まっ」
口を塞がれている為、抗議すらさせてもらえない。何か言おうとしても、黙れと言わんばかりに善逸に口を吸われる。
これはやばい……!
光希がそう思っていると、炭治郎の鴉が善逸の後頭部に突き刺さった。
「ぐはっ!!いってえーー!!!」
「ヤメロ!何シテル!コノ馬鹿頭!!」
「……はっ!俺」
我に返った善逸は青ざめる。
目の前には息を荒くして、自分を睨みつけている光希。