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雷鳴に耳を傾けて【鬼滅の刃】我妻善逸

第75章 静かな時


善逸の気配が消えたので、光希は懐から箱を取り出した。
前に切った自分の長い髪をそこから出して、木の枝で墓石の側の土を掘る。

ガリ、ガリ、ザクザク……
昼の山に、まるで子どもが土掘りをして遊んでいるかのような音が響く。

掘った穴に髪を入れて、丁寧に土を被せていく。

「………よし。どう?父様、母様……。私もそっちに行けたかなぁ」

墓石に向って話しかける。

「ようやく来れた。やっと……やっとだよ。えへへ」

顔は笑っているが、頬には涙が伝う。

「私おっきくなったでしょ?別嬪さんって言われるんだよ?ふふふ」


箱から緑色のお手玉を出す。
生家にあったお手玉だ。

手遊び歌を歌いながら、楽しそうに一人でお手玉で遊ぶ光希。

「ほら、これあげる。そっちで遊んでね」

そう言って、墓石にポンとお手玉を置いた。


「ずっと忘れてて、ごめんなさい」

光希は墓石に向って頭を下げる。

「私の我儘のせいで、三人を死なせてごめんなさい」

涙がぼたぼたと溢れる。

「もっと一緒に居たかった。もっと、愛をもらいたかった。愛を返したかった。ごめんなさい……ごめんなさ……い」

光希の身体を、風と共に後ろから善逸が抱きしめた。
何も言わずに強く抱きしめてくるその身体も震えていて、泣いているのがわかった。

二人は何も言わずに、涙だけこぼした。


涙が落ち着くと、善逸は光希から身体を離して墓の前に座った。

「ご両親の前で失礼しました」

墓石に向って、ぺこりと頭を下げる善逸。
光希は思わずクスリと笑う。

「初めてお目にかかります。私は我妻善逸と申します」

何やら丁寧に挨拶を始める善逸。

「お父様、お母様。私は、お嬢さんを妻として迎えたいと思っております」
「は?……ちょっと何言ってんの」

「私は光希を心より愛しております。光希も私をこの上なく愛してくれております」
「………いや、ちょっと待ってよ」

「というわけで、娘さんを私にください」
「………父様、母様、今のは間違いです。忘れてください」
「いえ、間違いではございません。光希を俺の妻にします」
「妻にはなりません」
「なります」
「ならない」
「なれよっ!」
「ならねえっ!」

二人は怒鳴って、ハッとする。

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