第75章 静かな時
二人は手を繋いで山を登る。
「………ねえ。俺、期待しちゃうよ?」
「炭治郎より善逸がいい、って言っただけだよ」
「そうだね、ふふふ」
善逸は、ご機嫌になって歩いている。
光希は山を登りながら周りを見ている。
「……この道、覚えてる」
「そっか」
「いつも父様に抱っこされて登ってたけどね」
「そうなんだ。小さい子の足ではキツイよな」
「ううん、甘えてただけ。私が可愛すぎて、父様、私に激甘だったから。あはは」
「自分で言うのが凄えわ」
話していると家が見えてきて、禰豆子が庭から顔を出す。
「あ!めいお姉ちゃん!!お兄ちゃーん、お姉ちゃん来たよー!!」
光希は繋いだ手を離そうとしたが、善逸が手に力を込めて離させない。
え、と彼を見るが、善逸は知らんぷりをして手を繋いだまま家へと向かう。
「光希、いらっしゃい」
炭治郎と伊之助が家から出てきた。
笑顔で光希を出迎える。
「炭治郎、お邪魔します。伊之助、久しぶり」
光希も笑顔で二人に挨拶する。
「お前ら、なんで手ぇ繋いでんだ!ガキだな!」
伊之助が、繋がれた手を指摘する。
「ガキじゃないから手ぇ繋いでんの」
「はぁ?わけわかんねぇ」
「伊之助にはまだわかんねえんだよ」
光希は、善逸と伊之助が言い合っているのを苦笑いして見つめる。手の力が緩んだ隙をついてするりと離し、善逸が持ってくれていた包みを炭治郎に渡す。
「これ、お土産。皆で食べて」
「わ、ありがとう」
炭治郎は包みを受け取って、家の中に案内しようとする。
「炭治郎」
「なんだ?」
「家に上がる前に、叔母様たちにご挨拶させてもらっていい?」
「……うん。ありがとう光希。こっち」
炭治郎は包みを禰豆子に渡して、光希を庭へ案内する。
庭に沢山花が咲いている場所があり、炭治郎がそこに静かに座った。
光希は炭治郎の隣に座って、持っていた花束を一つ、そっと供えた。