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雷鳴に耳を傾けて【鬼滅の刃】我妻善逸

第75章 静かな時


山道を少し行くと、二人は呼び止められる。

「善逸」
「三郎さん」

振り向くと老人が二人を見ていた。

「ははは、なんだお前、恋人がいたのか」
「あ……いや、まあ……その、へへへ」

善逸は慌てて光希の手を離し、頭を掻きながら誤魔化して笑う。
光希も老人に、にこりと笑いかける。営業スマイルだ。

「こんちには。いいお天気ですね」
「こりゃまた別嬪さんだな………って、え?顔をよく見せてくれ!」

老人の顔付きが変わる。

「お、お前……もしかして光希か?」
「え?わ、私をご存知なのですか?」
「知ってるに決まってるだろ!……いやあ、たまげた。生きていたのか……そうか、そうか……良かった」

老人は光希を愛おしそうに撫でる。
光希は老人の顔をじっと見る。少しずつ記憶が戻っていく。

「……覚えてねえか。小さかったからな」
「いえ、ほんのりと……。『お爺ちゃん』とお呼びしておりましたでしょうか」
「! そうだ」
「炭治郎と一緒に、何度もここへ遊びにきました。……二人で、傘を作るお手伝いをしたような気がします」
「そうだ。……覚えていてくれたか。大きくなって……こんなに綺麗になったのか……」

三郎爺さんは、目に涙を浮かべる。

「最近、炭治郎たちが帰ってきて……お前もこうして顔を見せてくれるとはな。嬉しいことは続くもんだな。長生きしてみるもんだ」
「お爺ちゃん、お元気そうで何よりです。私も嬉しいです。傘は……たぶん私たち、邪魔してただけですよね、ごめんなさい」

ふふ、と光希は笑う。
三郎爺さんも笑って「そんなことねえよ」と言う。


「光希。お前、炭治郎じゃねえのか」
「え?」
「お前たちは夫婦になると言ってたが」
「ああ、それですか」

光希は善逸の手を取って、持ち上げる。

「今の私は、こっちの手の方がいいの」
「えっ」

黙って二人の会話を聞いていた善逸が、驚いて声を上げる。頬が赤く染まる。

「へえ、そうかい。おい善逸、やるじゃねえか」
「ふふふ。では失礼します。また」
「ああ、またな」

光希は頭を下げて、善逸と山を登り始める。

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