第75章 静かな時
「あ、村田さん!辞書買っといて!これと同じやつをあと三…、いや五冊」
「わかった」
「竹内さんは、ここに書いてあるのをお願い」
「了解」
指示を出しながら光希が部屋の前に来る。
「義勇さん、入ってもよろしいですか?」
「入れ」
戸が開くと、少し疲れた顔の光希が現れる。
「義勇さん、善逸と一緒に炭治郎の家に行ってきます」
「ああ。あまり遅くなるなよ」
「はい」
隣の善逸に話しかける。
「おまたせ、善逸。行こっか」
「もういいのか?」
「うん」
立ち上がると「行ってきます」と義勇に笑いかけて、部屋を出ていった。
光希は、炭治郎たちへのお土産と花束を二つ持って善逸と共に屋敷を出発する。
今日の光希は、白地に水色のストライプの着物の上に紺色の羽織を着ている。
半衿も帯も暗い色にしていて、派手な色が多い光希の私服の中で、落ち着いた色のものを合わせている。
髪の毛は上半部をサイドでくくり、善逸に貰った髪留めで留めていた。
善逸が隣を歩く光希をじっと見つめる。
「……今日はお墓参り仕様ですから」
「どんな着物も似合うなって思ってね」
「どうも」
「俺との逢瀬だと、ハイカラなの着てきてくれるもんね。次はいつ会えるかなー?」
「そうだね、買い物いっぱいあるの。荷物持ちお願いするわ」
「それ、逢瀬じゃなくない?!」
笑いながら歩く。
「善逸も。その着物、すっごくいいね」
「………でしょ」
善逸は桑島慈悟郎の遺品である、茶色の着物を着ていた。
「よく似合ってる。素敵だよ」
「ありがと……へへ」
善逸は光希が持っているお土産を取って手に持ち、片手は光希の手と繋ぐ。
光希と善逸は手を繋いで山を登っていった。