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雷鳴に耳を傾けて【鬼滅の刃】我妻善逸

第74章 最後の仕事


「……お疲れ様でした」

光希は小さな声でそれだけを言い、輝利哉に向かって深く頭を下げた。そして体の向きを変え、義勇と不死川にも同じように頭を下げた。


光希は頭を下げたまま顔をあげない。
畳に付けられた指先が震えている。

義勇と不死川が、それを見て眉を下げて薄く笑い合う。義勇が彼女の頭にポンと手を置き、不死川は彼女の背中に手を添えた。

二人の手の暖かさが、染み込むようにじんわりと光希に伝わっていく。


輝利哉が光希に近付き、波千鳥の手ぬぐいを見せる。

「これ、借りたままだった。ありがとう」
「………、はい」
「ほら、顔上げて」
「…………」
「涙は誰かに拭いてもらうんだろう?光希がそう言ったんだよ。僕が拭いてあげる」
「それは戦闘中の話です!今は自分で拭けます!」
「まあまあ」

「……意地悪に育たれて、嬉しい限りです」
「おかげさまで」
「泣いているのは輝利哉様です。私が拭いて差し上げましょう。お貸しください!」

輝利哉と二人で、笑いながらお互いの涙を拭きあう。


そしてこの日、――――総司令官、如月光希の仕事が、全て終了した。



蝶屋敷までの道を、三人で歩く。

「はぁー………」

とぼとぼと歩く光希がため息をつく。

「んだよォ、さっきから…るっせえなァ。そんでもって歩くの遅えぞォ」
「泣くつもりなかったのに……はぁ………」

終わったのだと思った途端に気が緩んだ。
べそべそと泣いたことを悔やんでいるようだ。

「肩の荷が降りたんだろう。よく頑張ったな」
「ちょっとやめて!義勇さん!また泣くから!本当やめて」
「この泣き虫野郎がァ」
「うっさいですよ!」
「ははは」

不死川が笑う。
義勇も口元に笑みを浮かべる。

肩の荷が降りたのは、光希だけではない。


「私なんて最後にちょろっと関わっただけだもん。あの場で泣くのはおかしい。はぁ……泣きたくなかったよ……」
「そんなことはない」
「ああ。……よくやったと思うぜェ」
「お前がいなかったら勝てなかった」
「そうだなァ」

「だからやめてってば!わざとやってるでしょ!……これから蝶屋敷に顔出すんだからね!私が泣いたって皆に言わないでよっ」

そう言って怒る光希を、大人二人が笑って見ていた。

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