第74章 最後の仕事
「私には、こんなことしか出来ないから」
光希は悔しそうな顔をする。
「私がもっと色々出来ていれば……」
桐の箱をそっと指でなぞる。
唇を噛み締める。
彼女の頬に、……涙が流れた。
「ありがとうなんて、言わないで」
彼女の声が震え、嗚咽が漏れる。
善逸が後ろから光希を抱きしめる。
「ううん、言わせて。……ありがとう」
「………善逸」
「じいちゃんを守ってくれて、連れてきてくれて、一緒に泣いてくれてありがとう、光希。感謝してもしきれないよ」
耳元で聞こえる善逸の声は涙声だったが、もう落ち着いているようだった。
光希は鼻をすすって涙を拭く。
どういたしましてと言えない代わりに、しっかりと頷いた。
「じゃあ私、戻るね」
「え?もう?ゆっくりしていきなよ」
「あはは、自分家みたいに言わないの」
光希は自分の羽織を着て帰り支度をする。
善逸が見たことのない羽織だ。
光希は戦いが終わってから一度も隊服を着ていない。その分、普段着はいくつか新たに買っているようだ。
よく見ると少し髪が伸びてきており、落ちてくるのが煩わしいのか耳にかけている。
自分の知らないところで知らない姿になっていく光希に焦燥感をおぼえる。