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雷鳴に耳を傾けて【鬼滅の刃】我妻善逸

第74章 最後の仕事


「善逸」
「うん」

「今日、私は貴方に渡したい物があってここへ来たの」
「渡したい物?」
「そう」

善逸が机の上に置かれた風呂敷を見る。

「これ?」
「そう」
「何?これ」

善逸が少し緊張気味に光希に尋ねる。

「善逸。ゆっくり三回、深呼吸して」
「…………」
「大丈夫。ね、ゆっくり」

光希は善逸からの質問に答えずに、呼吸を整えさせる。善逸の目を見ながら、手を握ったまま一緒に深呼吸してやった。

「ふぅー……深呼吸、したよ」
「……よし。開けてみて」
「うん」 

善逸は椅子から立ち上がり、落ち着いて風呂敷を開く。
出てきたのは見覚えのある着物と手紙。そして、桐の箱だった。善逸の身体が、どくんと音を立てる。

「これ……」

善逸が、震える手を着物に伸ばす。

「桑島慈悟郎様の遺骨及び遺品です。遺書には何の指示もなかったため、唯一の弟子である我妻殿にお渡しするのが最良と判断致しました。どうかお受け取りください」

光希が善逸に頭を下げる。

善逸は着物をぎゅっと抱きしめる。茶色に鱗文様の着物からは、ふわりと懐かしい慈悟郎の匂いがした。

「………じいちゃん……じいちゃん……!うぅ…、うわぁぁぁん……」

善逸は着物を胸に抱いたまま、床に崩れ落ちた。
ぼろぼろと涙を零し、大声をあげて善逸は泣く。慈悟郎の着物がその涙を吸っていく。

光希は善逸の隣に寄り添い、彼が落ち着くまで背中を撫でてやった。


涙が少し落ち着くと、善逸は遺書を読んだ。
善逸を心配する内容ではあったが、彼を信じている旨が読み取れた。そして、光希を大切にしろと書かれていた。

「……ありがとうございます。確かに、受け取りました」

善逸は涙を拭きながら光希に頭を下げた。

「じいちゃんは隊律違反者なのに……、いいのか?」
「いいに決まってる」

違反者は、本来なら遺骨などは残してもらえない。遺品や遺書ですらも、処分されていても文句は言えない。

しかし、光希はそうなってしまうことを避け、善逸の元へ全て届けてくれた。自らの手で。


「………ありがとう。ありがとう、光希」

善逸は光希に何度もお礼を言った。


『誇りを、胸に』

あの時光希がかけてくれた言葉を、善逸は今一度胸に刻んだ。


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