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雷鳴に耳を傾けて【鬼滅の刃】我妻善逸

第73章 年越し


ゆさゆさと身体を揺り動かされる。

「……光希、光希。起きて」

善逸の声に、光希は目を覚ます。

「ほら、夜明けだよ」

うっすらと開いた目に、東の山から昇り始める太陽が映る。


二人は無言で日の出を見つめる。
ゆっくりと昇る朝日。
闇の世界に少しずつ色が付いていく。

無惨と戦っているとき、身体も心も極限状態の中、ひたすらこの朝日を待った。
『夜明けまで頑張れ!』何度その言葉を叫んだだろう。そして、何人倒れていっただろう。爆音と恐怖、血の匂いと凄惨な光景。それらは、おそらく一生消えることのない記憶となって心に刻まれた。


あの日と同じ朝日が、今こうして静かに昇る。

涙を浮かべて初日の出を見つめる光希。
善逸もたぶん同じことを思い出しているのだろう。光希の肩に置かれた手に、ぐっと力が入った。


光希は痛む右手を動かして、朝日に向かって手を合わせた。

『どうか全ての者に……愛の祝福を』

そう、小さく呟いた。



太陽が山から全て顔を出した。

「善逸、あいがと」
「うん」
「私、寝てたね。ごめん」
「想定内」
「ごめん、あいがと」

「光希、来年も一緒に見よう」
「来年のことを言うと鬼が笑うよ」
「鬼はもういねえ」
「愈史郎」
「あ、いた。あいつはせせら笑いそうだな」

善逸はくくっと笑う。

「来年だけじゃない。ずっとずっと俺と一緒に見よう。また光希が寝ちゃっても、俺がちゃんと起こしてあげるし。ね?」
「……日の出前にちゃんと睡眠をとっておけばいい。そうすれば寝ない。準備不足だった。日の出の時間から逆算して…」
「もう策とかいいでしょ……はぁ……」

すっかり明るくなった世界で、善逸が頭を抱える。
朝日に照らされて、彼の金髪がキラキラ光る。

「綺麗……」
「ん?初日の出?……うん、綺麗だな」

違うよ…と思いながら、訂正することなく光希は笑った。

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