第73章 年越し
「さ……寒い…死ぬ……」
屋根の上で凍える光希。
「初日の出が見たいっつったのはお前だろ」
善逸も隣で震えている。
右腕骨折中の光希と右脚骨折中の善逸。
屋根まで飛び上がることは出来なかったが、こそこそと梯子をかけて屋根まで登ってきた。
「だって……」
半纏に包まって空を見る光希。部屋にあった服を全部着てきたが、それでも屋根の上は寒かった。
光希は初日の出を見たことがなかった。
朝が早い彼女ではあるが、大晦日は善逸に付き合ってそこそこ夜ふかしをしていたため日の出前に起きられなかったからだ。
そもそも初日の出に興味がなかった。
朝日なんて毎日昇る。昨日の朝日も明日の朝日も同じ。そう思っていた。
でも、今年は日の出を見たいと思った。
「見てみたかったの、初日の出」
「そっか」
見たら何かが変わるのかもしれないと思った。
「でも……さっむ……」
「頑張れ、冬生まれ」
「長月です。秋ですよ」
「いや師走です。師走の三日でしょ。知ってるもんね」
「長月!長月の三日!善逸と一緒!」
「はいはい」
善逸は自分の半纏を片袖抜き、光希に半分被せる。半纏の下で光希の肩に手を回し、自分の方に引き寄せる。
「ほら、もっとこっち来て」
「ん……」
「俺の半纏、左手で掴んでさ、ぐって前に持ってきな」
「ん」
「そうそう」
「えへへ……温かいね」
「ね」
くっつき合う二人。
「…………」
「寝ないでよ?」
「……眠い」
「ちょっとちょっと」
「あっかくなったら、なんか眠いや」
「こら」
善逸の胸元に重みがかかる。
光希の目がとろんとしてくる。
「……善逸の…手ぇはね、……冷たいの」
「悪うございましたね」
「でもねー、……優しくてね、温かいの」
「どっちだよ。光希?寝ちゃ駄目だよ?」
「寝にゃい……日の出…見うの……ぜん…つと……一緒に……」
そこで途切れる言葉。
苦笑いをする善逸。
「まったくもー……」
善逸は光希がずり落ちないように、そっと足と腕で支えてやる。
やっぱり彼女に振り回される善逸。
新たな一年もそうであるぞと言われている気がした。