第73章 年越し
この「一年の振り返り」というのは、子どもの頃からの二人の通例行事だった。
いつも年が明ける前に光希が寝てしまうのだが、大晦日の夜は布団の中でその年にあったことを確認し合っていた。二人の思い出として心に刻みつけるかのように。
昔と同じように善逸と光希は話す。
話しても話しても尽きない。
心に輝くいくつもの思い出を、笑いながら、泣きながら、互いに夢中で話した。
それは去っていた者への鎮魂。
そして、この先の未来へと繋がる希望。
体温を分け合いながら、今年最後の時を二人で過ごす。いつの間にか二人の手はしっかりと繋がれていた。
時計が、日にちが変わったことを告げた。
新たなる年が始まる。
善逸は、ふと話をやめた。
真剣な顔で光希を見つめる。彼女の目の中に、自分の姿が映っている。
片手をそっと彼女の肩に置き、もう片方の手を彼女の顎に添える。
「……いい?」
付き合いたての頃のように、許可をとってくる善逸。光希は返事の代わりにゆっくりと目を閉じた。
善逸が顔を近付けて、二人の唇が重なる。
それはとても優しい口付け。暖かくて柔らかい、甘い甘い口付けだった。
善逸の目から、涙がひとつ流れ落ちた。
唇を離すと、善逸は光希を抱きしめた。涙を見られないように光希をぐっと自分の胸に抱え込み、こっそりと袖で涙を拭う。
「光希……、今年もよろしくお願いします」
涙声になってしまったのでバレたかなと思う。
「私こそ、今年もお願いします」
胸元から返ってきた光希の声も涙声だった。同時に二人は吹き出す。二人は抱きしめ合いながらクスクスと笑った。