第73章 年越し
部屋で一人ぼんやりとしていると、善逸が入ってきた。
「なんで帰ってきたらすぐに報告に来ないかなー」
不機嫌そうな善逸。
「俺、心配してたんだよ?」
「………ごめん」
「身体、大丈夫?」
「うん」
「ご飯一緒に食べよ」
「はーい」
食欲あまりないな、と光希は思う。
とりあえず善逸に付いて部屋を出る。
「お蕎麦♪お蕎麦♪」
善逸が嬉しそうにする。
そうか年越し蕎麦か、と思う。
台所に行くと、つまみ食いをした伊之助がアオイに怒られていた。
「あ、光希さん、善逸さん!早く伊之助さん連れて食べに行ってください!みんなの分なくなっちゃう」
「こら!伊之助!勝手に食うなよ!」
「伊之助、ご飯行くよ」
光希は専用の少なめ量の食事が入ったお盆を器用に片手で持つ。伊之助は、盆を持てない善逸の分とを二つ持ち、三人は台所を後にする。
「わ!こら!運びながら俺の天麩羅食うんじゃねえ!」
「うるせー!!運んでやってんだ!!」
「やめてぇぇ!やだぁ!きいぃーー!!」
騒がしく廊下を歩く。
光希の部屋まで戻り、机の上に蕎麦を置く。
付け合せの天麩羅は、だいぶ減っていた。
「やべえ……泣きそう」
善逸がお皿を見て頭を垂れる。
「まあまあ、私のあげうから」
「お前は自分でちゃんと食え!」
「本当に、……今日はちょっと無理なの」
「具合悪いのか」
「ううん」
光希は箸で天麩羅を善逸の皿に入れる。伊之助の皿にも入れてやる。
器を寄せ、蕎麦も二人に足してやる。
ただでさえ少ない光希の夕餉が、更に減った。
「おい、ちゃんと食えよ」
「これだけは食べます」
「少な過ぎだ」
「いただきます」
光希は善逸を無視して食べ始める。
左での箸もだいぶ上手くなった。
舌が痛いため、ふーふーと冷まし、少ない量をゆっくり口に入れる。
「おいし」
にこりと笑う。
善逸も「いただきます」と言って食べ始め、伊之助も食べる。
話しながら食べる三人。
「そっか。善治郎、いい場所に埋めれたんだな」
「うん。チュン太郎と伊之助のおかげ」
「俺は山の王だからな!」
「ふふふ、感謝してます」
仲良く笑い合う伊之助と光希に、若干面白くなさを覚える善逸。