第73章 年越し
土を掘ってる間、泣きじゃくる光希。こんな光希はめったに見ないので、伊之助は困ってしまう。
「お前のカラス、頑張ったんだよな」
「………うんっ」
「こうしてお前に埋めてもらえるんだ。喜んでんじゃねえのか。お前の服も一緒に入ってんだろ」
「うん……」
「だから、泣くな」
「……うぅ……うぇぇぇん……」
話しかけたら、光希はより泣いてしまった。
冷や汗を浮かべる伊之助。
「生き物は死んだら土に還る!で、その後なんか、いい感じになるんだ!え…と、だから、悲しくねえんだ!大丈夫だ!」
前は遺体を埋葬することすらよくわかってなかった伊之助が、今こうして一緒に埋めるのを手伝ってくれている。
そして、光希を心配をして一生懸命声をかけて励ましてくれている。
その優しさが嬉しくて、光希は更に泣いた。
「だあー!!もう、なんで泣くんだよ!!俺か?俺のせいか?」
ひとしきり焦りまくって慌てた伊之助だったが、途中で諦めて「……もう好きにしろ、泣け」と呟いた。
すると光希はそれに対して泣きながら笑ったので、「わけわかんねえ……」と伊之助は困惑した。
深めの穴を二人で掘って、箱のまま穴に入れて土を被せる。
「なにか石……ないかな?」
「石?」
「うん。墓標。目印のことね」
「ちょっと待ってろ」
伊之助が周りを見渡してごそごそと山に入り、大きめの黒い石を見つけてくる。
「わぁ、凄い!さすが山の王。いいね」
「まん丸だ。山では珍しいだろ」
「うん、この上に置いて」
「おう」
光希はカタバミの花をいくつか摘んで、石の前に置く。チュン太郎もプチッと一輪摘んできて、同じ所に置いた。それを見て、伊之助も花を摘んで墓に供える。
光希は墓の前に座った。
「……いったた…」
「おい、無理すんな」
光希は右腕をぐぐっと動かす。
「大丈夫…ぐぅっ……」
どうしても両手を合わせたかった。
命を捨てて助けてくれた友に、心からの御礼を言いたくて。
光希は痛みを堪えて、手を合わせる。
伊之助も隣に座り、同じように手を合わせてくれた。
……ありがとう、鴉くん。私はあなた達にもらった命で、生きていくよ。大好きだよ。ずっと忘れないからね………
太陽の光で、黒い石がキラキラと輝いていた。