第73章 年越し
この頃光希はよく泣く。カナヲのところで泣いてきたんだろうな、と善逸は思う。
言葉もだいぶ柔らかくなり、そもそもの雰囲気が変わってきた。
ずっと何かに追い込まれながら生きてきた人生。若旦那に言われて男のように過ごしてきた光希が、ここへきて初めて自分らしくできている……善逸はそんな気がした。
善逸は光希の頭を撫でる。
「話して、泣いて、すっきりした?」
「……うん。………話せてよかった」
「よかったな」
「……うんっ」
善逸は撫でていた手で光希の頭をぽんぽんと叩く。
「善逸、あいがと」
「ん」
光希が善逸に笑いかけると、善逸は光希をそっと抱きしめる。
「………好き」
光希の耳元で善逸が囁く。
その真っ直ぐな想いに応えてあげられずに、光希は抱きしめられたまま俯く。
何も言わない光希に、善逸は腕を解く。
彼女の顔を覗き込んで話しかける。
「そろそろ何か言えよ」
「…………」
「こんなに俺のこと好きって音させてんのに」
「…………」
「意地っ張り」
「…………」
「無視はなしだろ?」
「……聞いてうよ」
「聞いてうよ……可愛いっ!」
善逸は光希の頬に口付けする。
「やっ、ちょっと!」
「へへっ」
光希が驚くが、善逸は悪戯っ子のように笑う。
「もー!油断なあないなぁ」
「たりめーだ!俺がどれだけ我慢してると思ってんの」
「…………」
「早く素直になって俺ん所戻ってらっしゃいな」
「…………」
「可愛がってあげるよ?光希ちゃん」
「戻んない。今日は伊之助とお出かけだし」
「え?……なんで伊之助?」
「言う必要ないし」
「そりゃ、ないけどさ……え?どこいくの?二人だけで行くの?ねえ?」
途端に余裕を無くし、わたわたとし始める善逸。
「着替えうから、出てって?」
「え……ちょっと光希」
「出てって!」
松葉杖ごと放り出された善逸は、伊之助めがけて片足で飛びながら去っていった。