第73章 年越し
光希と善逸が、破局。
どこから漏れたのか、その噂は五日程で瞬く間に広まった。
そんな事が騒ぎ立てられるなんて、それこそ平和になった証拠だろう。
この日は大晦日。
人々がなんとなくバタバタとしていた。
「よおよお、善逸。お前光希に派手に振られたんだって?」
ニヤニヤしながら、宇髄が善逸に話しかける。
「………あんた本当に嫌なヤツだな」
「ははは。で、何したんだよ?また浮ついた行動しやがったか」
「何もしてませんよ」
「何もしてねえのになんで振られるんだよ」
「……いろいろ、あんだよ」
ベッドの上で、善逸がむくれる。
善逸の顔のひび割れはだいぶ良くなり、絆創膏は外されている。
身体のあちこちにはまだ包帯が巻かれているが、骨折以外はだいぶ治ってきている。
「別に俺、光希のこと諦めてませんから」
「そうかい。ま、せいぜい頑張りな」
「言われなくとも」
「ま、でも元気になったな、あいつ」
「ええ。俺と別れてから……ね」
善逸は苦笑いを浮かべて俯く。
呼吸での回復を始めた光希は、どんどん回復していった。善逸や伊之助に食べさせられて、食事も少しはとれるようになった。
「俺と別れて、ほっとしたのかな……」
「かもな。まあ、それだけお前とのことが重荷だったってことだろ」
「ねえ、さっきから酷いですよ。怪我人にかける言葉じゃなくないですか?」
「は?知るか。本当のことだろが」
「………まあ、ね」
「それだけ、あいつにとってお前がド派手に特別だってことだろ」
宇髄は善逸の頭をくしゃりと撫でる。
「………そっすね」
「んじゃ、俺は帰るから。可愛い嫁と楽しく年越しするからよ。またな」
宇髄は手をヒラヒラとさせて病室を出ていった。
「くっそ、あんのやろ……」
善逸は盛大に顔を引つらせた。
光希と善逸は、幼馴染に戻った。
しかし、善逸は遠慮なく光希に近付くし、別に光希も逃げていかない。
ご飯も共に食べるし、いつも一緒にいる。
変わった所といえば、善逸からの猛アピールが凄まじくなった、というくらいだ。