第10章 想い
「じゃあさっきの、もう一回……いいか」
「さっきの……?ああ、女言葉のやつか」
光希は少し嫌そうな顔をしたが、善逸は無視する。そして、ふぅ、と息を整える。
緊張が走る。仕切り直しのもう一回。
「俺は、光希が好きです。愛しています。兄弟じゃない。一人の女性として、心から愛しく思っています。
光希は、こんな俺を好きでいてくれますか?」
先程とは少し違う言葉が出てきた。
善逸はあどけなさを残す顔を真っ直ぐに光希に向け、頬を染めながら見つめている。
すると今度はすぐに返事が返ってきた。
「私も貴方を、心から愛しています」
光希は言いよどむことなく、そう答えた。
こちらも頬を染め、善逸を見つめてにこりと微笑んだ。
返事をもらった善逸は、途端に震えだした。
そして、震える手を伸ばして光希の身体を抱き寄せた。
「……なに、震えてんだよ」
「こら……お前…言葉……」
「一言だけっつったろうが」
「……うん。そう、だったな」
善逸の震えが止まらない。
「光希……」
「…ん?」
「どうしよ、身体が震えて止まんない」
「うん。めちゃめちゃ震えてるな」
「俺、緊張し過ぎて……」
「そうか…じゃあ……」
光希は善逸の背中に手を回し、ぎゅっと抱きつく。
「こうしたら、落ち着くか?」
光希が腕を回したことで二人の密着度が上がる。特殊な耳を持たなくても、善逸の激しい鼓動が光希にも聞こえる。
「……光希、好きだ」
「俺も、好きだよ」
「大好き」
「俺も」
二人の間に温度差はあるのかもしれないけど、善逸はもう十分幸せだった。
善逸はそっと身体を離し、後ろの木に光希を押し付ける。背中が痛くないように、優しく。
光希の両肩に手を置いたまま、「いい…?」と善逸は聞く。改めて聞かれると照れくさいもので、光希は返事の代わりにそっと目を閉じる。
口元に微笑みを浮かべ頬を上気させ、幸福の音を奏でる光希。
「光希……愛してる…」
そう囁いて、善逸は光希の唇に自分の唇を合わせた。
ようやく言えた。
ようやく伝わった。
嬉しすぎて打ち震えるという感覚を、善逸は初めて知ったのだった。