第10章 想い
「わかった、一度、普通に喋っていい」
善逸がそう言うと、光希は少しほっとした顔をする。
「困らせて、ごめんな」
「いや……」
「あのさ。俺、お前の事、好きなの。じゃなきゃ…流石の俺もあんなことしない」
山での口付けの事を言ってるのだろう。善逸が顔を赤くする。緊張気味に、改めて自分の言葉で告白をしてきた。
「お前は、どう思ってんだよ。俺の事。
まとまってなくていいからさ、今思うことを言ってくれよ」
「俺は……ずっとお前のことは兄弟だと思ってきた」
「うん…」
「好きかって言われたらそりゃあ好きだよ。大好きだよ。さっきも言ったけど、この世で一番大切に想ってる。口付けだって全然嫌じゃない」
「………」
「でも、なんだろうな……お前の好きは、恋人の好き、だろ?」
「まあな……」
「そうなると、よくわからない」
「なるほどな」
善逸は腕組みして考える。
光希は案外不器用で、得意でないことは柔軟にとらえられないことがある。善逸はそれをよく理解している。急に恋人関係を求めても難しいだろう。
自分の求める所と、光希の受け入れ可能な部分を探す。
「お前、俺の事、好き?」
「ああ。好きだよ」
「ちゃんとしっかり、好き?」
「しっかり?……ちゃんとしっかり、好きだよ」
「そのくらい好きな男は、俺だけ?」
「うん。お前だけ」
善逸が、わかったと頷く。
「俺も光希が好き」
「うん」
「じゃあそれでいい」
「いいのか?」
「……まあ、今はな」
この問答で善逸は満足したようだ。
「これで俺と善逸は恋人になったのか?」
「ん?んーどうだろうな……」
「違うのか?」
「いや、お前がそう思うならそうなんだろ。なんか俺もよくわからなくなってきたぞ……」
「お前は俺と恋人になりたいんだろ?」
「そりゃあな。でもお前はまだ、兄弟愛が強い」
「……そう、だな」
「だから、俺は待つよ」
「そう…か。でも、そんなに変わらないんじゃないかな。俺の好きも、お前の好きも。どうだろう……」
光希は頭の中で分析し始める。その顔を見て、善逸はそうじゃねぇんだよ…と軽く溜息をつく。
考えて答えを出そうとしてる段階で、自分の好きと光希の好きは違うんだ。
もっとどうしようもないくらい恋の炎が燃え上がるまで待とう。
善逸はそう思った。