第72章 笑顔を見せて
善逸は掴んでる光希の手を離さない。
「お前は炭治郎と口付けしたから、それを苦に俺と一度別れました。で、俺はそれを許します。なので、また俺たちは付き合えます。よかったなぁ」
「……そんな…単純なことじゃ……」
「だから、喋っちゃ駄目だってば」
「…………」
「単純でしょ。俺はお前が好き。お前も俺が好き。なんか問題がある?」
「たんまりある」
「じゃあ……また、時間をかけてお前を落とすよ」
善逸は光希の手を両手で包み込む。
そのまま祈るように自分の額に付ける。
「時間はあるんだ。平和になったんだから。一度やれたんだ、俺は出来る。何度だって」
言葉とは裏腹に、光希の手を握る善逸の手は冷たくて震えていた。彼の不安が強く伝わる。
「俺の家族になるのはお前だ。だからもう、絶対にこの手を離さない。はぐれないんだ、俺たちは……」
彼が泣かないように堪えているのがわかる。
生きてここにある光希の手の暖かさと、愛と絆。それを信じると善逸は決めた。
「どんな手を使ってでも、お前を落とす」
善逸は光希の手の甲に口付けをした。
「覚悟しといてよ」
上目遣いで真っ直ぐに光希見つめて、そう告げた。
………本当に強くなったな、善逸
光希も善逸を見つめる。
表情は無表情だが、音が変わったのが善逸に分かる。
「あ、今、俺のこと格好いいなって思ったでしょ」
「…………」
「ねえねえ」
「…………はぁ」
「ちょっと!溜息つくのやめてくれるっ?」
光希は苦笑いをする。
善逸は光希の身体を勢いよく引き寄せ、右腕に触らないよう注意しながら、素早く自分の膝の上に座らせた。