第72章 笑顔を見せて
「お前の気持ちはわかった」
善逸が光希に声をかける。
なにかが吹っ切れたような、明るい声だった。
「俺はお前と別れて、新しい人生を生きるよ」
光希は頷く。
「せっかくあんなえげつない戦いから運良く生き残ったんだ。楽しく生きない手はねえ。俺は長生きして、くそ爺って言われるまで生きるから」
光希はクスッと笑う。
「憎まれっ子として、がっつり世にはばかるわ」
頷きながら、紙を汚さないように墨のついた筆を片付ける光希。
椅子の方へ戻ってきた光希の手を善逸はガシッと掴む。
「というわけで、如月光希さん」
「……?」
「俺と、付き合ってください」
「は?」
今別れたばかりの男に告白される光希。
訳がわからず、ぽかんとする。
「婚約破棄したでしょ?だから、もっかい初めからいく」
善逸はにこっと笑う。
「俺、これから新しい人生始めるわけだけどさ、やっぱりお前がいいわけ」
「おま……阿呆か……」
「こら、喋んな」
「…………」
「俺は貴女が好きです」
「いや……」
「お前も、俺のことめっちゃ好きじゃん。さっきお前が書いたの、恋文じゃん、こんなの」
善逸がメモ用紙を見る。
途端に恥ずかしくなる光希。
「賭けだからしかたなく署名したけどさ、これ、別に今後の事とか何も書いてないしね。光希のこと好きでいちゃ駄目とか、諦めなきゃ駄目とか、ないもんね」
善逸がそう言って笑う。
突然別れを突きつけられて、半ば無理やり承諾させられて……辛くないわけがないのにこうして笑ってみせる。
泣いて喚くだけだと予想していたのに、善逸は全く違う対応をしてみせた。