第72章 笑顔を見せて
光希はメモ用紙に文字を書き始めた。
善逸は、彼女が綴る想いを読んでいく。
『ごめんなさい。でも、私は貴方にどうしても幸せになってほしい。それだけは絶対に諦めたくない。それが私の全てだから』
「光希……」
『貴方はきっといいお父さんになる。優しさと強さを持っているから。それを、どうか次に繋げて欲しい』
「…………」
『家族を作ってください。小さい頃、私と家族になってくれたように』
「…………」
『貴方を愛してくれる女性は必ず現れる。私に遠慮せず、その人を全力で愛してあげてください。そして、貴方そっくりの女の子が産まれたら、盛大に親ばかになればいい』
光希は善逸を見て笑った。
「……男だったらどうすんだ」
『泣き虫の呼吸を教えてあげて』
「おい、俺の息子は泣き虫確定か」
「ふふふ……」
『それが私の願い。全部私の我儘。勝手なこと言ってるってわかってます。ごめんなさい。炭治郎とのこともごめんなさい。辛い思いばかりさせてごめんなさい』
光希はそう書き、「ごめんなさい」と口に出して善逸に深く頭を下げた。
善逸は承諾書をもう一度見る。
「……光希、筆貸して」
覚悟を決めた。
光希は立ち上がって筆を準備する。
墨を付けた筆を善逸に渡すと、彼は空欄にサラサラと署名した。
あまりにもすんなりと書いたので、光希は拍子抜けした。もっとごねると思っていた。
「はい。これでいいか?」
善逸は光希に聞く。
「ありがとう」
「うん」
これで二人は婚約者ではなくなった。