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雷鳴に耳を傾けて【鬼滅の刃】我妻善逸

第72章 笑顔を見せて


紙に『私は貴方を裏切った』と書いた。


「炭治郎のことか」
「そう」

短い受け答えは口で返す光希。


「……あれは、治療だ」

善逸は低い声で話す。
光希はまた鉛筆を走らせた。

『それは本意か』
「うん」
『嘘』
「嘘じゃねえ」
『ならどうかしてる』

「だって、そう思うしかねえだろ!あんなの見せられて、辛くない訳ねえだろ!」

善逸が語気を強めて叫ぶ。

光希は善逸を指差し、次に紙に書かれた『本意』という字を指でトンと叩く。今のがお前の本音だろ、という意味だ。


「………他に手が無かったんだろ」
『関係ない』

「仕方なかったんだろ」
光希は『関係ない』と書いたところを鉛筆でトンと叩く。

「結果、炭治郎を人に戻せた訳だし」
また、同じところを叩く。


『不誠実な行為は許されない』

そう書いて、『私は貴方を裏切った』と書いたところを指し示して善逸をじっと見る。
善逸は紙に書かれた文字を見ながら俯いていた。



「まだある、…っ」

光希はそう言うと、ぐっと口を押さえた。舌がズキッと痛んだ。

「おい、喋んなくていいって。傷が開く」

心配する善逸に、ごめんと身振りをして、また鉛筆を持つ。


『私、子ども産めない』

光希は無惨との戦いで下腹部を負傷した。毒の影響もあり、卵巣が一つ機能しなくなった。子宮も大きなダメージを受けており、子どもは産めないと診察の際に医者に言われた。


「知ってるよ。俺も、聞いた」
「…………」
「で?それがなに?」

『貴方とは結婚できない』
「子どもが欲しくて結婚するんじゃない」
『駄目』
「子ども出来なくてもいい!お前と一緒に居られればいいんだ!」

光希は首を横に振る。
何度も何度も振る。


光希は『一緒』と書いて上からバツを打ち、『長生き』と書いてまたバツを打つ。そうすることで、一緒に居られない、長生きしないから、と伝える。

「なんでだよ」
『痣』

痣の代償で、短命だと伝える。

「……誰もお前の痣を見ていない。これは不確定な事実だ。そうだろ?」
「…………」

善逸はそう言う。
確かに誰も見ていない。光希でさえ、痣が出たのか確証はないのだ。
ただ、あの能力の飛躍的上昇を考えるに、痣が出ていた可能性が高い。

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