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雷鳴に耳を傾けて【鬼滅の刃】我妻善逸

第72章 笑顔を見せて


『回復までに時間がかかった。迷惑かけて本当にごめん』

メモ用紙にはそう書かれていた。


左利きとはいえ、ずっと右で文字を書いていた光希。
左手の文字は下手っぴで可愛らしく、善逸には新鮮だった。思わず口元に笑みが溢れる。

善逸は光希の鉛筆を借りて紙に書く。
少し驚いた表情をする光希。

『大丈夫だ。気にするな』

やや右上がりの癖の強い字。善逸の字だ。
途端に光希が噴き出して笑う。


光希は笑いながら善逸の口元を指差し、『お前は喋れよ』とジェスチャーで伝える。

「あ、そっか」
「くくくっ……」

光希が笑い、善逸は少しバツが悪そうに頭をかく。

二人を取り巻いていた緊張が少し和らいだ。

光希はまた紙に字を書いていく。

『話がある』
「………うん」
『しんどい話だけどいいか』
「………やだ」
『日を改めてもいいけど』
「それはそれで嫌だ」

光希の文字に、善逸が口頭で答えていく。

『じゃ、どうしたらいい』
「しんどい話なんてしなきゃいいんじゃない?」

善逸がそう言って、光希を見つめる。
光希は眉を顰める。

「やだ、そんな顔しないでよ」

『前に進むには必要』
「前に……」

光希は善逸を見てコクリと頷く。

『ずっと足踏みしてた。やっと前を向けた。善逸とチュン太郎のおかげ。ありがとう』

長文になりそうなところは短くして思いを伝える。


善逸は黙り込む。
光希も、手を止める。

静まり返る病室。



「前に進むために……」

善逸が呟く。

「俺と……離れるのか」

光希を見ないまま、両手を握りしめて口にする。


「俺と一緒には、進めないのか」
「………うん」

光希が口で答えた。
戦いの後、初めて彼女が喋った。

「………なんで」

善逸が呟くと、光希は鉛筆を持った。



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