第72章 笑顔を見せて
善逸はチュン太郎の泥を拭いてやる。
光希の涙で、羽もだいぶ濡れていた。
「光希に花、持ってきてくれたの?」
「チュン……」
「ん?違うよ、光希が泣いたのは嫌だったからじゃないよ。ほら、ちゃんと手に持ってるだろ?」
「チュン」
チュン太郎はぴょんぴょんと跳ねて枕元に行く。心配そうに、じっと光希を見つめる。
「お前も光希、大好きだもんな」
「チュン」
善逸も光希の枕元に右手をついて自分の顔を乗せる。左手の人差し指でチュン太郎の頭を撫でながら、一緒に光希の寝顔を覗き込んだ。
「なんか、いつもと泣き方が違ったな。音も違った。……心が動いたのかもな」
善逸は光希を見ながら呟く。
「お前、やっぱり凄いのな。チュン太郎」
「チュン!」
「はは、光希にお花、ありがとな」
「チュン!チュン!」
チュン太郎は嬉しそうに飛び跳ね、光希の頬にスリスリと顔を寄せた。
「こらこら、チュン太郎」
善逸が笑うと、寝てる光希も一瞬だけ口元に薄っすらと笑みを浮かべた。
「え!……今、笑った?」
善逸が驚いて、顔をガバッと上げる。
寝ながらではあるが、ほんのりと笑顔を見せた光希。
「ふふふ、嬉しいなぁ。笑ったねえ……」
善逸は微笑みながら光希の前髪を撫でた。
彼女から聞こえるその柔らかな音に、善逸は回復の兆しを見た。
大切なものを沢山失って、悲しいのは仕方ない。自分の力のなさに、やるせなくなるのも仕方ない。
でも泣いて泣いて乗り越えていくしかないのだ。
「時間はあるから。俺は、ずっと側にいるからね」
善逸は愛おしそうに光希を見つめる。
「チュン!」
自分もいるぞ!と言わんばかりのチュン太郎に、「お前ね、ここは気を利かせて退室するところなんだよ。わかる?」と声をかけると、チュン太郎は「チュン!」と鳴いてプイッとそっぽを向いた。