第10章 想い
善逸は光希を強く強く抱きしめた。
「ありがとう。ありがとう、光希。俺は俺をなかなか信じてやれないけど、お前のことは信じるよ」
「やっとかよ…やれやれだぜ……」
「おい、戻んなよ……」
「いやもう無理。勘弁して。喋りにくくて仕方ねぇよ。世の女は凄えな」
「頑張れよ。……俺、今お前に口付けしたいんだからさ。女のお前に口付けさせろよ」
「人を二重人格者みたいにいうなよ。どっちも俺だ。気にするな」
「いやおいお前、雰囲気ってやつ考えろよ」
そう言いながら、だんだん二人は笑えてきた。笑うなよ、お前こそ、と言い合う。
善逸に抱きしめられているためお互い顔は見えないが、絶対笑ってると確信できる。
「じゃあ、一言だけでいいから。女言葉で喋って!お願い!」
善逸が身体を離して光希にお願いした。
「まあ、一言だけなら、いいけど。何を言えばいいんだ?」
「何を言うかはお前が考えて言って」
「はぁ?」
「俺が今からお前に言いたいこと言うから、それを女言葉で答えてくれ」
「なんかよくわからねぇけど……」
「よし、いくぞ」
そのまま善逸は黙って何度か深呼吸をする。
そして覚悟を決めたように息をひとつ吐いた。
「俺は、貴女が好きです。誰よりも愛しています。貴女は、俺をどう思っていますか?」
善逸の口から出てくる自分への愛の言葉。
それに、驚きすぎた光希の脳みそは付いていかない。
目を見開いたまま、停止している。風に吹かれた長い髪だけがさらりと動いていた。
「………返事は?」
赤い顔をして善逸が言う。
「あ…、えと……」
だが、続かない。
女言葉の縛りがあるせいなのか、混乱してるからなのか、全く言葉が紡げない。
「え、えと…俺は……」
「俺、じゃない」
「わ…、わたしは………」
「……私は?」
―――愛してるって言われた…。俺は…どう思ってんだろ、こいつのこと。いや、勿論好きだよ。好きだが…その答えで、いいのか…?
言葉の紡げない光希に、善逸も焦り出す。
一世一代の大勝負、とまではいなかないが、覚悟を決めた愛の告白だった。
この前の山での反応や今までの感じからして、勝算はあると思っていたし、まあまあすんなり「私も好きよ」と返してくれると思っていた。
しかし、
光希から困惑の音がする。