第72章 笑顔を見せて
光希の意識が戻ったのは、戦いから三日目だった。それから数日間うとうとし、少しずつ回復していった。
その間、善逸はいつも付き添っていてくれたが、光希は終始浮かない顔をしていた。
舌は噛み切ってはいなかったが、思い切り歯を立てた傷は深く、まだ喋ることが出来ない。
善逸が話しかけると反応はするが、基本的にはベッドの上で膝を抱えてぼんやりと座っている。虚ろな目からは時折無意識に近い感じで涙が溢れ、頬に貼られた不織布を濡らす。
右腕は脱臼や骨折をしており動かせず、布で吊られている。頭をはじめ、どこもかしこも包帯で巻き巻きになっており痛々しい。
食事をほとんど取らないので、栄養は点滴頼り。どんどん痩せていく。
呼吸で回復していけばもっと早く治るだろうに、彼女はそれをしない。
とにかく魂が抜けてしまったように、静かにしている。
「……おい。あれ、誰だよ」
見舞いに来た宇髄が、善逸に声をかけた。
今、彼らは善逸たちが入院してる部屋にいる。
善逸は杖を椅子に立て掛けて、宇髄と並んで窓辺に座っている。
「………光希ですよ?」
「いや、そっくりさんじゃねえのかよ」
「まあ……、そうかもしれませんね」
善逸は、机に置かれたお茶をズズッと飲む。
「派手に静かだった」
「……矛盾してるって気付いてます?」
宇髄は頬杖をついて、先程見てきた光希を思い出す。
「多分、光希は死にたかったんだと思います。でも俺が無理やり連れて帰ってきたから……」
「それでいいんだよ。よくやった」
「はい……でも……あいつ、辛そうで」
「まあ、そうだろうな」
善逸が俯く。
「笑わなくなっちゃった」
「そうか」
「喋れないのは仕方…ないけど……っ、俺がどんなに…っ、話しかけても、……うっ、抱き…しめても、……笑わないんだ」
俯いたまま、ぽたりぽたりと彼の握りしめた手に涙が落ちる。
宇髄が大きな手で善逸の頭を撫でた。
「焦るな。まだあいつの心の整理が出来てねえんだろ」
「……っ、はい」
「俺はお前らが生きてるだけで嬉しいよ」
「男に言われても……嬉しくないです……」
「てめぇ……」
宇髄は善逸の髪をぐしゃぐしゃと撫で回す。
善逸は手の甲で涙を拭いた。