第71章 運命の子
善逸は考えた。
体温が低い
土は冷たい
なら、抱きしめてあげよう
舌からの出血
意識がないので呼吸で止血が出来ない
なら、せめて出血部位を心臓より高い位置に持ってきて出血を緩やかにしよう
そして、善逸は次の手を考える。
光希の好きなことを。
どうやったら戻ってきたいと思うのかな
何をしたら、また……生きたいと願ってくれるのかな
考えて、考えて、手がかりを求めて記憶を辿る。
『えへへ……、とんとん気持ちいい』
疲れた時に抱きしめて、背中を叩いてやったら嬉しそうにしてたな……
善逸は光希の背中を優しくさすり、トントンと叩いてやる。子どもの頃から、善逸が泣くといつも彼女はこうしてくれた。善逸もこれが大好きだ。
かふっと小さく光希が息を吐く音が聞こえた。彼女は息を吐くと、ふぅっと息を吸った。
「よしよし、……いい子だ、光希。大丈夫、大丈夫だからね」
耳元に呼びかける。
不安定だが、たまに思い出したように呼吸をしている光希。
「俺はね。お前との未来、絶対に諦めねえから。お父さんとお母さんのお墓、一緒に行くんだよね。約束したもんね」
光希の指が微かにぴくりと動く。「思い出した?」と善逸が聞く。
「光希、俺さ……お前や炭治郎みたいな、びっくり能力、無いのよ。特殊な呼吸とかじゃないし、血筋も多分普通だしね」
善逸は、ずり落ちてきそうな光希の身体をぐっと抱え直す。
「俺にあるのは、お前とのいっぱいの思い出……。あとは歌くらいしかないの。ごめんな……」
呼び戻せるのか
この俺に
彼女の呼吸が止まっている。名を呼んで、少し強めに背中を叩く。光希はまたひとつ、息を吸って吐いた。
さあ、歌え
もう一度
恐れるな
愛することを……
愛を紡ぎ続けることを恐れるな
お風呂場で善逸が歌った時、腕の中で寝ていた彼女は目を覚ました。きっと、戻ってくる。いや、戻らせるんだ。なんとしてでも。
「光希、……戻ってきてよ。お願いだ」
善逸は息を吸って、歌い出す。