第71章 運命の子
義勇は片腕しかないので、彼女を持ち上げられない。出来ないこともないが、瀕死の彼女の身体を動かすには繊細さが必要である。
そんな中、進み出る大柄の男。
「我妻、俺がやってやるよ。お前に……抱きつかせればいいのか?」
「はい。お願いします。……よくご無事で」
「こいつに、散々鍛えられたからな」
いつかの炎の剣士だった。
腕には薄紫色の腕章。この男も隊長である。
体中傷だらけだが、手足は全部ついていた。
男は光希の隣に座った。
善逸は光希の口を開かせて、動かす前に血を吐き出させる。
「よいしょ」
男は光希に跨り腕の横に手を入れ、そっと上半身を起こす。力の抜けた首がクタリとなったので慌てて自分の肩に頭を乗せて支える。
一瞬、男が光希を抱きしめる形になった。
「ちょっとぉ!アンタこらっ!!何してくれてんですか!!」
「う、うるせえ!」
「ったく、油断も隙もないですね」
「不可抗力だ!……文句言うなら自分でやれ!馬鹿!」
男は頬を染めて光希を支えながら、善逸の方に身体の向きを変えてやる。
「こいつ……軽っ……」
「………ですね」
「女だったんだな」
「そうですよ」
「そして……お前の……」
善逸が広げた手に、男は光希の身体を渡す。
光希は善逸の胸の中にこてんと頭を付ける。
足の上に座らせているので、骨折している右足が痛い。
「……っ、もうちょっと身体を上にお願いします。頭、俺の肩より高くしてください。あと……光希の足、も少し左にして……いたたっ……」
「こうか?」
「そうそう。ありがとうございます」
男が介添えをしてやり、光希は善逸の胸に寄りかかり、彼の肩に頭を乗せる形になった。
善逸の身体にぺたりとくっつく光希。
その身体をそっと抱きしめて、愛おしそうに頬を寄せる善逸。
そんな二人の姿に、炎の剣士は羨ましく思った。
「本当に、恋人は水柱じゃなかったんだな」
「ええ。だからあの時も言ったでしょ」
「……頼むぞ、我妻」
「はい。……ふぅ」
落ち着け、落ち着けと善逸は繰り返す。