第10章 想い
笑っている光希に、善逸が恐る恐る話しかける。
「光希、怒ってないの?」
「なんかもう怒る気失せたわ」
「本当に、ごめん」
「もういいって」
善逸が安心したようにへへ、と笑う。
「善逸はさ、もう少し自分に自信持てよ」
「………無理だよ」
「お前、わりと凄いぞ?」
「気休めはよせよ」
「ほら、もう俺の言葉を信じない」
「……!」
「あーこれじゃ、また変な噂が立ったら善逸くんはそっち信じちゃうなー、困ったなー」
「………」
「俺の言うことくらい、信じろよ」
「信じたい、けどさ……」
なかなか卑屈モードから引っ張りだせない。伊達にこいつも十六年この性格で生きてない。
うーん、と考える。そして閃く。
光希は髪を解いた。さらりと髪がなびく。
「……じゃあ、『私』の言葉なら、信じられる?」
光希は声と口調を変えた。善逸が目を見開く。
「あのね。貴方は、凄い子なのよ。それに気付いてないの。周りは皆気付いてるのにね。本当にお馬鹿さん」
口調は女だが、言ってる内容はいつも通りだ。
「義勇さんと比べてどうするの?私は貴方の方がいいって言ってるのに、なんで信じてくれないの?」
「だって……」
「だってじゃないでしょ?そこはありがとうでいいんじゃない?違う?まだ安心できないの?」
「光希……」
「私も、善逸にいろいろ不安を与えてたんだよね。ごめんね。善逸が自信なくなったのも、私のせいな所もあると思う。ほら、子どもの頃から私、何かと優秀だったから。善逸は劣等感の塊だったと思う……」
「おい、なんかちょっとおかしくなってきたぞ」
「でもね、ずっと、ずうっと見てきた私が言うんだから間違いない。貴方は良い男よ!」
「……光希」
「この優秀な私が、この世で一番大切に想ってる人なんだから。ね?これは凄いことだと思わない?
義勇さんだって炭治郎だって、私にここまで好かれてないのよ。貴方だけ。特別待遇なのよ?」
光希はそう言ってにこりと笑う。
善逸が光希に抱きついた。