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雷鳴に耳を傾けて【鬼滅の刃】我妻善逸

第71章 運命の子


光希は炭治郎に口付けをした。

直後に「……ぐっ、」と苦しそうな声が光希の口から漏れる。


義勇はすぐに気が付く。

光希は、舌を噛んだ。
炭治郎に己の血を飲ませている。


「光希!やめろ!失血で死ぬぞ!!」

近寄る義勇を、口付けをやめないまま光希が目で制する。

義勇は焦る。
舌はまずい。止血が出来ない。

『口移しは無理やり食べさせるにはいい手法だ。人は口にねじ込まれてそのまま塞がれれば、吐き出さずに飲み込む事が多い』

………こいつ、俺が前に言ったあの言葉をずっと覚えていて、今、実践しているということか?


義勇は光希を引き剥がしたりはせずに、とりあえず側に座り、様子を見守る。


炭治郎の喉がごくんと上下に動く。


見開かれていた炭治郎の目が、喉が動く度にとろんとしてくる。そのまま次第にゆっくりと、彼の瞼が力なく閉じていく。
光希はそれを横目で見ながら、左手で炭治郎の頭を優しく撫でる。


光希の舌から溢れる血を直接口に注ぎ込まれ、炭治郎は飲み続ける。鬼を人間に戻すと言い伝えられている血だ。

最短かつ確実に飲ませる方法として、光希はこの方法を選んだ。
大切な人を傷つける事を、百も承知で……



炭治郎は目を閉じたまま、救いを求めるかのように震える右手を上へと伸ばした。彼の目から一筋の涙が流れる。

そして彼の伸ばされたその手は、そっと光希の後頭部に置かれ、短くなった髪をくしゃりと触りながら「もっと」とねだるかのように彼女の頭を自分へと押し付ける。
甘えを知らない長男坊の珍しい行動に、義勇も驚く。


光希も血と共にだんだんと力が抜けていき、思考も出来なくなってくる。身体を支える右腕はもう感覚がないので痛みすら感じない。

炭治郎の様子を見ていた彼女の目も、ゆっくりとした瞬きの度に開かなくなっていき、閉じられていく。
左手だけがしっかりと炭治郎の頭に添えられていた。



静まり返る戦場の中、長い長い二人の口付け。

炭治郎が飲みきれなくなった光希の血が、炭治郎の顎を伝って流れ始めた時、義勇が「もういい、光希」と彼女の身体を炭治郎から離した。



既に光希の意識はなかった………


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