第71章 運命の子
光希は善逸の歌を背中に聴きながら、炭治郎に向かって走る。
………俺は、本当に酷いことをしてるな
そう、ぼんやりと思う。
………地獄へ行こう。先に旅立った皆や父様や母様には会えなくなっちゃうけど、俺は地獄がいいや。俺の祖先も居るのかな。説教してやろ
失血のためか、なんだか思考が朧気だ。
炭治郎に近付く一歩を踏み出す度に、少しずつ、何か大切なものを落としていくような気がした。
炭治郎は自分の頭を抱えて唸っている。
善逸の歌は、炭治郎にも届いているようだった。
「炭治郎ちゃん!」
光希は炭治郎に声をかける。
それは、女の声だった。
周りの隊士がハッとする。
「気分はどうなの?大丈夫?」
「グッ……ガァァッ……」
「炭治郎ちゃん、しっかりして!」
「ガアアッ!!」
「こらっ!おいたしないのっ!!めっ!!」
「グアウッ!!!」
炭治郎が爪で光希を攻撃する。
光希はギリギリで避ける。爪が首をかすめた。
「光希!!」
義勇が叫ぶが、光希は「来るな!」と叫び返す。義勇は迷いながらグッとその場に踏みとどまった。
「炭治郎ちゃん、……辛いね」
「………ウゥッ……ガァァッ…」
「こんなの……こんなの…嫌だよねぇ……炭治郎ちゃん……」
光希の顔が、辛そうに歪む。
また炭治郎の間合いの中へ近付く。
義勇は刀をギリッと握る。
「炭治郎ちゃん……喧嘩はもうお終い。光希が、戻してあげる……大丈夫だよ」
「………ガ…グァァ…」
「そうだよ……めっちゃんだよ……」
光希は左手を伸ばして炭治郎の頬にそっと触れた。
「ほら、ね?私でしょ?」
「…………」
炭治郎は攻撃をしない。光希をじっと見つめている。
しかし、目も牙も鬼のままだ。
光希も炭治郎を見つめて、状況を確認する。
やはりさっきの薬は効いている。
あともうひと押しだと確信した。