第70章 最強の鬼
炭治郎の動きが止まる。
開かれた目から凶暴性が和らぐ。
「!!!」
………効いた、のか?
歌うのを止めて、固唾を飲んで見守る。
戦場が静まり返る。
「お……お兄ちゃん……?」
禰豆子が立ち上がって、声をかけながらゆっくりと炭治郎に近付く。
その瞬間、「ガアアァッ!」と唸り声を上げる炭治郎。伊之助が禰豆子を抱えて飛ぶ。
「……ちっ」
「これでも駄目なのかよ!どうしたら……」
「いや、でも確かに効いてる」
炭治郎は禰豆子に向けた手を自分へと戻し、両手で頭を抱え込む。苦しそうに「ガアッ、グアァ……」と声を上げている。
………戦ってる。炭治郎。自分と戦ってんだね。偉いよ。誰も殺さずに……お前は本当にいい子だなぁ………
炭治郎のその様子を見て、光希は静かに決意をする。
………そうだ
何を捨ててでもやる
目的のためならなんでもやる
どんなに可能性が低くても
そこに少しでも光があるのなら
例え命を失おうとも
大切な人を傷付けたとしても
俺は、総司令官
この戦いを勝たねばならない
まだやれることがある……
「………俺もやらなきゃ。負けてらんねえ」
その光希の呟きに、善逸が振り向く。二人の視線がぶつかった。
彼女から聞こえる静かな心音。
前にも聞いたことがある。
………覚悟の音だ……
善逸はゾクリと背筋が冷えた。
「善逸………、ごめん」
善逸が何か言葉を発するより前に、光希がそう言った。
そして、光希の顔が善逸にそっと寄せられ、唇が重ねられた……