第70章 最強の鬼
花の呼吸 終ノ型 彼岸朱眼
カナヲが技を発動する。
片目で行うため、光希はなんとしても炭治郎からの隙を作りたくてここまで歌を歌ってきた。
思い出溢れる 懐かしの
あの故郷へ 優しい故郷へ
光希の脳裏によぎる言葉。
以前、輝利哉に言われたことだ。
『光希がもっと優秀だったら、こんな策を使わなくてもよかったんじゃないのか!』
本当にそうだよな、と思う。
危険な技を友に使わせる。
せっかく残った片目を、これで失う。
でも、勝つためには手段を選ばない。
それが軍師だ。
帰りなん いざ 帰りなん
歌の中で、光希が痛みをこらえて上げていた左手を、炭治郎に向けてバッと振り下ろした。
カナヲが炭治郎に向かって走り出す。
炭治郎は身の危険を感じ、止まっていた動きを再開させて、精彩を欠きながらもカナヲを攻撃する。
「!! カナヲッ!避けろ!!」
カナヲは攻撃を朱眼で見極めてかいぐぐる。
紫雲を連れて 帰りなん……
炭治郎の爪がカナヲの髪を一房すくい、きれいな黒髪が宙に舞う。
そして、本来ならあるはずのない炭治郎の左腕が、カナヲの胸元を捉える。
………カナヲ!死ぬなっ!!
光希は手を握りしめて祈る。
辛くても目を閉じない。
しっかり見つめる。
思い出溢れる 懐かしの
あの故郷へ 優しい故郷へ
帰りなん いざ 帰りなん
紫雲を連れて 帰りなん……
追撃を少しでも減らせるように、善逸と光希は歌を繰り返してカナヲを支援する。
カナヲは攻撃をくらうと同時に、炭治郎の背にしのぶから渡されていた薬を打ち込んだ。
「炭治郎、だめだよ。早く戻ってきて。禰豆子ちゃん泣かせたらだめだよ……」
カナヲは涙を浮かべながらそう言って、二人の歌が響く中、どさりと倒れた。
「カナヲ!!よくやった!凄いぞ!!さあ!炭治郎!戻ってこい!!」
光希が叫ぶ。
「光希、今のって」
「人間戻しの薬だ」
「えっ!なら、」
「ああ。戻ってこい……頼む……」
戻ってこい、戻ってこい………
皆が祈るように炭治郎を見つめる。
炭治郎の心臓が、ドクンと音を立てた。