第70章 最強の鬼
光希は歌いながら炭治郎の様子を伺う。
指を回し、善逸に繰り返せと指示を出す。
善逸は『望郷』を繰り返して歌う。
息が整ってきた光希は、主旋律を善逸に任せたまま、飾りとして歌に入る。本来とは逆の形で、二人の声が重なる。
戦場にいる人間たちも、宿の客同様、二人の歌を聴きながら大切な人を想い涙を流した。
そして、光希と善逸も、宴会で歌っていたときとは全然違う心持ちなことに気が付く。
そう。
今の二人には、帰りたいと願う場所がある。
それは厳密には故郷ではない。それでも、隠れ家での楽しかった日々が頭によぎる。
善逸が楽しそうに笑う顔。光希が善逸の胸に甘える姿。抱き合いながら一緒に寝た布団の暖かさ……
歌いながら思い出が次々と浮かんできて、どうしようもないくらいに胸が熱くなった。
自分たちで作ったこの歌に、初めて想いを乗せて歌うことが出来た。
炭治郎にもあるはずだ。
帰りたい場所が。
一緒帰りたい人がいるはずだ。
………そうだろ?思い出せ!炭治郎!!!
二人は歌で呼びかける。
呼吸が苦しい。
息が切れる。
所々歌詞が紡げないが、想いは切らさないように歌を続ける。
光希は戦況を見つめる。
脳内ではこの先の展開予測と策を練っている。
炭治郎の動きが完全に止まる。
禰豆子を掴んでいた両腕をだらりと下げた。
光希はカナヲに目線を送る。
二人の目が合う。
歌いながら、光希は左手を真上に上げる。
カナヲが立ち上がった。