第10章 想い
「おい、離せよ。人が見てんだろが」
光希は少し慌てるが、振りほどこうとすると善逸はさらに強く手を掴んできた。
「嫌だ!俺の話を聞いてくれるまで離さない!」
はぁ…と溜息をつく。
まあ確かに一方的に言って去るのは良くなかったな、と反省して「わかった。わかったから離せ」と言う。
今にも泣きそうな顔をする善逸に、ぎょっとする。
こいつは泣かせると煩い。極めて煩い。
光希は先程の丸太の方向に歩くが、丸太をまたぎ越し、善逸を連れて街道沿いの林に入っていく。
人目につかないところまで来ると、木にもたれて座る。善逸も側に座った。涙でぐしょぐしょになっている。
こいつは最近急にしっかりし始めてそれこそ男っぽくなってきたと思ったのだが、やはり善逸は善逸だなぁ、と軽く溜息をついた。
どうやら少年と男を行き来する、不安定な年頃のようだ。
「何だよ、話せよ。ほれ」
「うっ、うっ、ひっく、」
「怒ってねぇから」
「だ、だって、うぇぇ、」
善逸は泣いてしまって話せない。いつもなら抱きしめてよしよししてやるが、光希も微妙な心持ちなので、それをやる気にはならなかった。
「何であんな噂信じたんだよ」
「ううっ、それは、」
「そんなはずないって思わなかったのか?」
「お、思ったよ。何も聞いてないし。でも……」
「不安だっかのか?」
「うん……」
「だから、俺を信じずに噂を信じたのか」
「……ごめん」
光希が整頓してやると、善逸は少し落ち着いて泣き止んできた。
「信じたかったんだけど、俺、ずっと不安で……。俺なんかより冨岡さんの方が断然格好いいし、光希に似合うよなって思っちゃったんだ」
「まあ、確かに、顔はな」
善逸がビクッと顔を上げる。
「ははは、お前は変な顔だな」
「う、うるせー……」
「でも俺は、顔がいい男より、俺が安心して側に居られる男の方が、いい」
「……へぁ?」
「ぶっ、本当にお前の顔、間抜けすぎ。あははは!」
光希は鼻水を垂らす善逸を見て、腹を抱えて笑った。
善逸は自分のことが好きじゃない。
それは子どもの頃からわかっていた。
じゃあ俺がその分善逸を好きでいよう、幼い頭で考えたのを思い出した。