第70章 最強の鬼
戦場にいる人間が、戦いながら歌に耳を傾ける。
そして皆、光希が女であると確信する。彼女が今まで人前で歌わなかったのは、この歳の男には出せるはずのない高音を歌い上げることで性別がバレてしまうからだ。
炭治郎にも変化が現れる。
ググ…グァゥ……と苦しそうな様子を見せる。無惨の細胞と炭治郎の自我とが戦っている。
「お兄ちゃん!頑張って!!」
禰豆子が炭治郎を抱きしめて呼びかける。
炭治郎が歌の出処である二人を狙って攻撃をする。善逸はすぐさま刀を抜こうしたが、素早く義勇が飛び込んで管を弾いた。
「歌を止めるな!続けろ!!……きいてる」
『聴いてる』なのか『効いてる』なのかはわからないが、義勇がそう言った。
二人は歌い続ける。
雪がいっぱい降ってきて
あっという間に 雪景色
お庭は真っ白 犬もシロ
ほっぺとお鼻は 真っ赤っか
雪合戦は 負けないぞ
ゆき ゆき ゆき ゆき ゆきだるま
幼い歌が続く。
禰豆子が鬼になった時を思い出して、光希は炭治郎に届きやすそうなものを選んでいる。
とんぼと並んで 走った野原
滑って転んで ごっつんこ
とんぼはどこかに いったけど
笑顔はいつも すぐ隣
草の上なら 平気だよ
何度転んでも 痛くない
可愛らしいこれらの歌は、昔二人が作ったものだ。遊び回る二人の子どもの姿が、聴いてる人々の脳裏に浮かぶ。
光希と善逸はどこか楽しそうに歌う。
しかし、光希の目の奥は冷静そのもの。炭治郎の様子をじっと見ている。